自己資金は、額だけでなく「中身」も問われる
秘訣3/35 正しい自己資金とそうでない自己資金の違いを知る
自己資金については、額だけでなく中身も問われます。いや、むしろ中身こそがシビアにチェックされるといっていいでしょう。
同じ額でも自分で貯めたのか、あるいは他人から借りたのか、入手ルートによっても、融資の審査では評価が異なります。うなるほどの多額の資金が口座にあったとしても、自己資金とさえ認められないこともあります。
つまり、自己資金には正しい自己資金とそうでない自己資金があるのです。
もっとも評価の高い“正統派”は、自分でコツコツと貯めたお金です。
例えば、同じ100万円でも、会社員時代に給与から毎月、定期積立で預金100万円を貯めた人と、親から100万円をポンともらった人では、どちらが返済に関して信頼できそうでしょうか。
もしあなた自身が融資する側に立ったとしても、どちらか一人にだけ貸すなら、前者を選ぶのではないでしょうか。
金融機関は、自己資金をチェックする際に、通帳原本を必ず確認します。そこで見るのは貯まっている額だけではありません。お金の貯め方のプロセスをチェックしているのです。ここで毎月、コツコツ定額が積み上がっている状態であれば、毎月の返済もしっかり実践してくれることが期待できます。融資した資金も、ムダに散財することなく、計画性を持ってビジネスの成長に生かしていくだろうと判断されるわけです。
もちろん、親からの援助も自己資金に含めることはできますが、評価は下がります。自己資金を見る際には、創業時に「いくらお金を持っているか」だけでなく、事業の将来性、本気度をも判断されるのです。
自分で貯めた資金に次いで、評価が高いのが一緒に住んでいる家族、配偶者の預金です。
とくに飲食店や美容院などの店舗ビジネスの場合、夫婦経営で成功している会社、事業所が多く見られます。フランチャイズなどでは、夫婦での経営が条件となるようなケースもあります。
生計を一にしている配偶者が、万が一の際に自身の預金を提供することが可能ということは、起業に協力的であると判断されます。
二人で協力しあって、コツコツとお金を貯めてきたケースならば、さらに評価が高まります。目的をもって計画的にお金を貯めてきた人の数が一人よりも二人のほうが、お金を貸す側としても返済される可能性が高まり、安心できるわけです。
家族経営ならば人件費がかからないのもメリットです。売上が上がりにくい創業初期も、コスト過多にならないことがプラスに評価されるのです。
この場合、配偶者の通帳を提出した方が有利になります。親から贈与を受けた場合も同様に親の通帳のコピーを準備した方が有利になります。
コツコツと貯めたお金もなければ、配偶者の通帳もアテにできない。しかし、キャリア(経験値)はあるので、なんとか融資を受けたい。
そんな方を筆者の会社でサポートする際に実践するのが、“余剰財産”探しです。
余剰財産とは、現金以外の資産を指します。例えば解約返戻金付き保険に入っていれば、解約返戻金の額が余剰財産として見てもらえます。金融資産があればそれも該当します。余剰財産があれば、万が一業績が悪くなっても、その財産を切り崩してしばらくは営業し続け、お金を返してくれるだろう!という判断をしてもらえることから、余剰財産があればあるだけ融資を受けやすくなります。
「見せ金」はなぜバレるのか?
一方、通帳にいくら相応の金額があったとしても、認められない自己資金があります。つまり“正しくない自己資金”です。
その代表が通称「見せ金」です。見せ金とは、相手を信用させるために、文字どおり“見せる(ためだけの)お金”を意味します。
例えば、今は資本金1円から設立可能な株式会社も、以前は資本金1000万円を用意する必要がありました。1000万円といえば、そう簡単には貯められない額です。
そこで、充分な資金が用意できない場合、一時的に第三者機関、カードローン会社などから借入れをして資本金として見せるという手法が使われた時代がありました。表面上、資本金を満たす資金力があると法務局を信用させる方法ですが、これは場合によっては違法となります。
この方法を、融資を受ける際に使うのです。一時的にカードローンや他人から借金をしてお金を振り込み、その通帳を提示し自己資金があるように見せるやり方です。これは犯罪ではありませんが、まず十中八九、ウソは見破られるので注意が必要です。
なぜ“見せ金”は、バレてしまうのでしょうか。“見せ金”と疑われる典型的なケースが、通帳に毎月定額収入ではなく、一時的に高額な収入があった場合です。
例えば、過去1年以上、無収入なのに、通帳の口座にいきなり数百万円の入金があったらどうでしょうか。
もちろん、いきなり何百万円単位の大金が通帳に振り込まれても、本人名義の株や保険を解約した一時金として判断されれば問題はありません。「相続で得たお金」ならば、証明書類などを一緒に提出すればOKです。審査では、申込者本人の個人通帳(会社で借りる場合は法人口座の通帳)だけでなく融資を申し込んだ年からさかのぼり、2年前までの確定申告書または源泉徴収票も提出します。
しかし、他人名義やカードローン会社の名義で融資の審査の直前に、通帳にお金が振込まれている場合、あるいは証明書類がないお金の場合、必ず面談で「このお金はどういうお金ですか?」と尋ねられることになります。
口からデマカセで「宝くじに当たった」「自宅に貯めておいたタンス預金を振込みました」などと主張するような方もいますが、口座にまったく貯金がない方が、自宅に数百万円の現金があるというのも、不自然な話です。
実際、筆者のお客様でもコツコツと500円玉預金で、自己資金を貯めた方がいらっしゃいました。このケースでは貯金を銀行に預け入れて通帳記入することで、自己資金として認められましたが、こうしたタンス預金も場合によっては“見せ金”と判断されてしまうリスクもあります。
最低1年間は頑張って、100万円程度の預金を用意せよ
一度にではなく定額ずつの振込みでも、振込み人の名義が個人名の場合、定額収入ではなく、この人物からお金を借りているのではと疑われます。
また、法人で借りる場合、資本金がすぐに通帳から引き出されていたりすると“見せ金”と判断されるためNGです。
新たに法人口座を作って、個人の預金口座から資本金を入金する場合、そのお金の流れも見られます。法人口座に入金されたお金が果たして自分で貯めたものなのか、見せ金ではないのか。法人口座と個人口座両方の通帳の提出が求められます。
通帳を提出する際には、税金や公共料金を滞納せずに払っているかも確認されます。通帳は、最低でも半年分はチェックされますので、入出金ともに事前対策が肝心です。
金融機関の担当者は審査の現場に何度も立ち合ってきたプロですから、付け焼刃の小細工は簡単に見破られます。
そして、公庫の審査で一度断られると、しばらくの間は融資を受けたいと思っても門前払いされ、審査にこぎつけることさえ難しくなります。
[図表]振込み人が個人名義の場合も疑われるリスク
見え透いたウソでチャンスを無駄にすることのないよう、独立を志すならば、創業前の最低1年間は頑張って、100万円程度の預金はしておくようにしましょう。
もちろん少しずつ通帳に入金しながら貯めるようにしましょう。
田原 広一
株式会社SoLabo 代表取締役