「法人化」で基本的にすべての支出を経費にできる⁉
賃貸経営をしていて、ある程度、収益が増えてくると、事業化、つまり法人の設立を検討する人が多くいます。個人事業より、法人のほうが節税メリットが多いからです。
①個人の所得税より、法人税のほうが税率が低い
個人の所得税は、所得額に応じて5〜45%という7段階の累進課税になっています。住民税も合わせると最高税率なんと55%です。
さらに、事業的規模になると、290万円を超える所得(青色申告特別控除前の所得)に対
して、5%の事業税も課されてしまいます。
これに対して、平成29年度の法人の実効税率(法人税、法人事業税、法人住民税など実際に負担する税額の所得金額に対する割合)は所得によっても異なりますが、所得400万円以下で21・42%(資本金1億円以下の普通法人の場合)。
単純に、税率だけを考えても、法人のほうが節税になるケースが多いと言えるのです。
②自分や家族に給与を支払い、給与所得控除が利用できる
個人事業の場合、収入から差し引けるのは原則として実際にかかった経費のみです。しかし法人の場合は、役員に給与(役員報酬)を支給することで、その報酬額は原則、法人の経費にすることができます。
報酬を受け取った役員(個人)は、給与所得として課税されますが、給与所得は「給与所得控除」を差し引くことができるメリットがあります。
そのため、自分や家族を役員にして給与を支払う人数を増やせば所得分散となるうえ、給与所得控除も使えるため、所得税率が低くなる可能性があります。結果として、住民税も安く抑えることができます。
③青色欠損金の繰越年数が9年間に延びる
個人事業の場合、事業所得などで損失が発生した場合、3年間繰越しができますが、法人の場合は9年間(平成30年4月1日以後に開始する事業年度の欠損金額は10年間)にわたって赤字を繰り越すことができます。
④経費になる範囲が広がる
個人事業の場合、事業とプライベートの活動を分け、事業に使った分についてしか経費として計上することができません。プライベートで使った分については家事費(生活費)となるためです。
しかし法人の場合、基本的にすべての支出を経費にすることができます。ただし、役員の個人的な支出を法人の経費として計上すると、経費にならず、役員賞与と認定されることがあるため注意が必要です。
不動産業において「個人事業から法人化」する目安
法人化は、ある程度の規模にならないと、そのメリットを存分に受けることができません。
では、どの程度の規模になれば法人化したほうがよいのでしょうか。新たに賃貸経営を始める場合、個人事業から法人化する場合に分けて紹介しましょう。
まずは新たに賃貸経営を始める場合です。
これから賃貸経営を始める場合、まずは物件を購入するところからです。最初から法人を設立して購入するほうがよいのか、まずは個人事業で始めたほうがよいかについては、現在の年収で大きく変わってきます。
所得税は、給与所得、不動産所得、事業所得などの合計額に税率をかけて計算します。たとえば、課税所得が1000万円の場合、33%と高い税率をかけなければなりません。住民税も合わせると43%も課税されます。
そこに不動産所得が上乗せされると、ますます重い負担になるのは一目瞭然です。そのため、現在の年収が高い場合には最初から法人を設立し、法人で不動産を購入することで、法人の低い税率を適用したほうが節税になります。
また、現在の年収は大きくないけれど、物件を徐々に増やしていこうと計画している人も、最初から法人を設立したほうがよいケースがあります。物件が増えるごとに不動産所得が高くなっていけば、高い税率を適用しなければならなくなるからです。
法人化には、その方式によって大きく2種類あります。「法人が物件を所有する方式」と「法人が物件を所有しない方式」の2つです。
それぞれにおいて、法人化の目安が異なりますので順に見てみましょう。
・法人が物件を保有する方式
法人が物件を保有するとは、建物のみ、または土地・建物の両方を法人名義に移転することです。そのため、家賃収入は法人に入り、個人は法人から役員報酬を受けます。
この場合の目安は、所得(収入−経費)が年間1000万円以上です。自分以外に役員とし
て参加する家族などがいれば、所得800万円以上が目安になります。
ただし、物件の名義を法人に移す際には、個人が法人に物件を売却する必要があるため、借入が少ない状態でないと、多額の移転費用や借り換え費用などがかかることに注意が必要です。
・法人が物件を保有しない方式
物件の名義は個人のままで、法人に管理やサブリースをさせる方式です。家賃は個人に入り、個人は法人に管理料やサブリース料を支払います。
この場合の法人化の目安は、家賃収入が年間3000万円以上です。管理料やサブリース収
入は一般的に家賃の10%〜20%ですから、家賃収入の規模が大きくないとあまり節税メリットがありません。
ただし、物件の売却などの必要がないので、借入金の借り換えなども必要ありません。借入金がかなり残っていても法人化しやすいと言えます。
個人事業から法人化する目安については、「法人が物件を保有する方式」「法人が物件を保有しない方式」いずれも不動産所得しかない場合を想定しています。
サラリーマンなどですでに給与所得がある人は、先の目安額より低くても法人化で節税の恩恵を受けることもあります。法人化する際には、税額とあわせて必要なコストなど、シミュレーションすることが必須です。
渡邊 浩滋
税理士・司法書士渡邊浩滋総合事務所代表 税理士
司法書士
宅地建物取引士
田中 英二
田中英二税理士事務所 税理士・CFP®・1級FP技能士
江本 誠
相続・贈与相談センター®南森町駅前支部(運営:江本誠公認会計士・税理士事務所) 公認会計士・税理士・行政書士・CFP®
南村 博二
中央シティ税理士法人 税理士・特定行政書士・MBA・登録政治資金監査人