今回は、相続を見越して賃貸経営を法人化するメリットとその注意点を見ていきます。本連載では、「不動産オーナーを支援する税理士の会」の著書で、株式会社エッサム編集協力、渡邊浩滋総合事務所代表の渡邊浩滋税理士・司法書士が監修した『賃貸経営でお金を残す! 不動産オーナーの儲かる節税』(あさ出版)から一部を抜粋し、賃貸経営の「法人化」により、節税メリットを得る方法を紹介します。

損益通算上は「法人」のほうがメリットが大きい

基本的に、個人の所得税は各種の所得を合算して所得税額を計算する総合課税制度となっています(本書『賃貸経営でお金を残す!不動産オーナーの儲かる節税』44ページ)。

 

そのため、一定の所得に限られますが、損失が出た場合、つまり赤字になった場合には、それ以外の所得からマイナスして計算することができます。これが損益通算です。

 

損益通算の対象となる所得は、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得です。また、賃貸用不動産を売却して損失が出た場合、損益通算できないことには注意が必要です。

 

なお、利子所得や退職所得は損失が出ることがありませんので、損益計算の対象とはなりません。配当所得、給与所得、一時所得および雑所得では損失が出ることはありますが、損益通算の対象にはなっていないことも確認しておきましょう。

 

このように、個人の所得にはその内容によって所得が区分されていますが、法人所得税の計算では所得の区分がないという特徴があります。賃貸経営で得た所得も、それ以外の事業で得た所得も一緒に計算します。

 

また、不動産を売却して得た譲渡所得という考えもないため、損失が出た場合には、それ以外の所得から差し引くことができるわけです。

 

損益通算では、法人のほうがメリットが大きいと言えるでしょう。

相続対策で「法人化」を活用するには時間がかかる

法人化は相続時の税金にも影響を与えます。

 

法人化による相続時の節税の第一のコツは「時間をかける」ことです。相続までにあまり時間がない場合には、一時的に財産が増えることで相続税が高くなることがあるので注意が必要です。

 

また、「法人が物件を所有する方式」と「法人が物件を所有しない方式」(書籍『賃貸経営でお金を残す!不動産オーナーの儲かる節税』157ページ)では、相続税に対する影響が異なります。

 

・法人が物件を所有する方式

土地建物保有法人、建物保有法人といった法人が物件を所有するタイプの場合、家賃収入をすべて法人が受け取ることになります。相続人を役員にすることで法人から役員報酬を受けることが可能です。

 

給与の支払いを受ける相続人には所得税・住民税が課せられますが、家族間での所得分散効果があります(書籍『賃貸経営でお金を残す!不動産オーナーの儲かる節税』116ページ)。

 

家賃を法人収入とすることで、個人の収入を抑えることもできます。個人事業の場合、家賃収入が個人に入ってきますから収入が現金等で貯蓄されてしまいます。その貯蓄には相続税がかかってしまいますから、できるかぎり少なくしておいたほうがよいわけです。

 

また、土地建物も相続の対象になりますから、死亡時に個人の名義になっていると、相続税が課される可能性があります。法人に土地や建物の名義を移しておくことで、この相続税を避けることができるわけです。

 

一方で、法人を設立した場合には、法人の株式を個人が持つことが多いでしょう。この株式には相続税がかかりますので注意も必要です。とはいえ、一般的に土地建物よりも株式のほうが評価額が下がりますから、この点でも法人のほうが相続時に有利と言うことができます。

 

ただし、会社の株式評価を計算する際、取得後3年以内の不動産は通常の取引価額で評価することになっています。そのため、法人が不動産を所有して3年間は、株式の評価のほうが高くなる可能性があり、相続税がかえって高くなることもあります。

 

これを防ぐには、相続発生より3年以上前に法人設立するか、または当初から株式を子などの相続人に所有してもらう方法が有効です

 

「法人が物件を所有する方式」のリスクは、個人から法人に物件を売却する際に、個人に売買代金という現金が増えることです。このままではその現金に相続税が課せられてしまいますから、現金等の資産を減らす対策を考える必要があります。

 

生前贈与する、生命保険に加入するなどが対策としてあげられますが、いずれにしても時間をかけて行う必要があります。

 

管理会社やサブリース法人の場合、物件の所有権は個人にあります。そのため、すぐに相続税を節税できるわけではありません。

 

ただし、管理会社やサブリース法人に支払う管理料分は個人の収入から差し引かれますから、その分は個人の現金等を減らせる効果があると言えるでしょう。相続時に現金が多いと、高い相続税を払うことになってしまいます。

 

相続対策としては、相続人を役員にして役員給与を支払う方策が有効です。被相続人に現金を集中させず、あらかじめ相続人に現金を支払うことで、相続税を抑える効果があります。実際に相続が発生する際には、納税資金にすることもできるでしょう。

 

法人化には、子への事業承継対策という側面もあります。賃貸経営を引き継ぐ子供がまったく業務にタッチしていないと、相続した後の業務にとまどうものです。場合によっては、対応できずに売却の道を選ぶケースもあります。

 

これでは、何のために守り、引き継いだのかわからなくなってしまいます。しかし法人化し、子供をその役員とすることで、自分の生前から子供に賃貸経営を経験させることができます。

 

つまり、法人化は事業承継の対策としても有効なのです。

地方税の課税、運営上のコストの発生等に注意を

ここまで法人化による節税効果など、メリットを中心に紹介してきましたが、法人化にもデメリットがあることを忘れてはいけません。しっかり確認したうえで、自分に最適な方法を選びましょう。

 

❶赤字でも7万円の地方税が課される

個人の場合、赤字であれば所得税や住民税は発生しません。しかし、法人の場合には赤字でも法人住民税が課せられます

 

これを均等割といい、資本金、従業員の数、地域などによっても異なりますが、毎年7万円となっています。

 

❷運営上のコストが発生する

個人事業の場合、自分で記帳し、自分で申告する人もいますが、法人の場合は法人税等の報告書などを作成しなければなりません。

 

これら法人税申告書の作成は専門性が高いため、税理士などの専門家に依頼するのが一般的です。もちろん、記帳や申告を税理士に依頼すると、その分のコストが発生します。

 

しかし、専門家に依頼することで、経営や節税などのアドバイスを受けることができるため、かえって出費を抑えることもできるでしょう。メリットと捉えることもできます。

 

❸社会保険に加入しなければならない

個人事業では、従業員がいても、常時雇用している人数が5名以下であれば社会保険の加入が任意になっています。

 

しかし法人の場合には、従業員がおらず、代表者が1名のみの場合にも社会保険に加入しなければなりません

 

社会保険料には会社負担分があり、一般的にはその半額を会社が支払います。給与によって社会保険料は変わってきますが、安いとは言い切れない額になることも多く、また今後も増加傾向にあるのも否めません。社会保険料を加味したうえで、報酬額を決めたほうがよいでしょう。

 

 

 

渡邊 浩滋

税理士・司法書士渡邊浩滋総合事務所代表 税理士

司法書士

宅地建物取引士

賃貸経営でお金を残す!  不動産オーナーの儲かる節税

賃貸経営でお金を残す! 不動産オーナーの儲かる節税

渡邊 浩滋,粟野 淳一,根岸 大助,小金澤 誠,野末 和宏,阿久津 公一,田中 英二,山本 愉章,宮﨑 健,宇賀 一夫,江本 誠,枡田 宗利,末吉 英明,伊東 正智,南村 博二,宮川 英之

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