約360万ETH(約52億円)が、ハッカーに盗まれた事件
それでは次に、これまでのICOの歴史を振り返ってみましょう。
ICOの始まりは2013年9月まで遡ります。米国の企業オムニ(Omni、OMNI、旧マスターコイン)がビットコイン2.0を利用した資金調達を世界で初めて行ない、約500万米ドルを集めました。これを皮切りとして、短時間かつ迅速に資金を得る事ができるICOは起業家たちの間で急速に広まっていきました。
ICOでは多くの場合、イーサリアムによって投資資金が拠出されます。イーサリアムはロシア人のヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)によって生み出された仮想通貨で、その通貨を生み出したICOで2014年に約16億円もの資金を集めました。
ICOの流行と共に急激な成長を見せていたイーサリアムですが、2016年6月、「The DAO事件」と呼ばれる問題が発生しました。
The DAOとは、イーサリアムのプラットフォーム上のプロジェクトである分散投資組織です。非中央集権で自立型であり、投資先をファンド参加者の投票で決め、利益が上がれば投資者に配分するというシステムでした。「DAO」は投資者に渡されるトークンです。2016年5月にICOを開始し、当時のICO額としては最高の約150億円もの資金を集めました。
The DAOにはDAOの運営に賛同しない場合に投資家が預けている資金をDAOから切り離して新しいDAOを作成できる「スプリット」という機能がありました。通常このスプリットは、一回すればその処理が完了しますが、資金の移動が完了する前に何度もスプリットを繰り返すことができてしまうというバグがありました。
The DAOのICOではその脆弱性を突かれ、集めた資金の3分の1以上にもなる約360万ETH、当時の価格にして約52億円ともいわれる額が盗まれるという事件が起きました。
不幸中の幸いと言うべきか、スプリットを使って分離された資金は、最低27日間はそのアドレスから移動できない仕組みになっていました。盗まれた資金についてどうするかという議論が行われ、ソフトフォークとハードフォークという二種類の方法が浮上しました。
ハードフォークを行うことで事態は収束へ
ソフトフォークはいわば口座凍結で、ハッキングが行われた取引以後ハッカーのアドレスに関わる取引が無効になり、アドレスには資金が入っている状態ですが取り出すことができなくなります。その場合、ハッカーも盗んだ資金を取り出せませんが、被害者にも盗まれた資金が戻ってこないということになります。
それに対して、既存のブロックチェーンとは別のブロックチェーンを作り、ハッキングを受けたブロックチェーンを分岐して、ハッキングをなかったことにできるというハードフォーク案が検討されました。
この両案をめぐり侃々諤々の議論が繰り広げられましたが、最終的にブロックチェーンを分岐するハードフォークを行うことで事態は収束に向かいました。
ハードフォークにより、従来のイーサリアムはイーサリアムクラシック(ETC)と、新しく生み出されたイーサリアム(ETH)とに分裂したのです。以上により、ハッカーによる不正送金が起こる前の状態に戻りました。
「The DAO事件」は、「Mt.Gox事件」以来最大の事件として暗号通貨・ブロックチェーン業界全体を震撼させ、イーサリアムをベースにしたICOに対しても、消極的な動きが生まれしばらくの停滞期を迎えました。
この事件の結果、イーサリアムは一時暴落しましたが、2018年3月現在の時価総額はビットコインに次いで第2位にランクインしています。
[図表]ICOの歴史(今まで起こった主な事件・ICO)