前回に引き続き、ICOに対する各国の法規制について見ていきます。今回は、日本で行われているICOの規制を紹介します。

2016年5月制定の「改正資金決済法」が注目された理由

6.日本

 

(1)これまでの流れ

金融イノベーションの促進と利用者保護。このバランスを取りながら、金融庁を中心とする関係機関の仮想通貨並びにICOへの取り組みと法整備は、世界の中でも先行しているといえます。その面からも国内における今後のICOの発展、普及には大きな期待が持てそうです。

 

具体的なICOの法制度に入る前に、仮想通貨への取り組みを振り返ります。

 

2014年4月のMt.Gox破たん事件は、被害者に日本人は少なかったとはいえ、本社が東京・渋谷であり、国内での仮想通貨に対する不信を大きく高めました。

 

被害者は英語を使いこなし、ある程度IT知識がある人が大半であり、その意味では自己責任の部分もあるということで、その後も尾を引くような大きな社会問題にはなりませんでした。しかし、この事件が突き付けた課題は、顧客の資金管理の大切さと、定期的な業務の情報公開、監査の必要性などでした。

 

また、仮想通貨がマネーロンダリングなどの違法な経済活動の資金源になっているのではないかという懸念も高まり、政府は2016年5月に「改正資金決済法」(※)を制定し、翌2017年4月に施行されました。

 

この改正法は、世界に先駆けて仮想通貨を決済通貨の一つとして法的に認めたとして国内外から大きな注目を集めました。

 

(※「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」の中の「資金決済に関する法律」に「第三章の二仮想通貨」という項目が追加されたものをこう略称します)

 

(2)改正資金決済法とは

 

内容は大きく分けて以下の三つになります。

 

●仮想通貨の定義
●仮想通貨交換業の定義
●仮想通貨交換業に関する規制

 

まず仮想通貨の定義について、法は仮想通貨に二つの要件があると想定し、1号通貨、2号通貨を定めています。

 

1号仮想通貨(資金決済法2条5項1号)


1.物品の購入・借り受け又はサービスの提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用できること


2.不特定の者を相手方として購入・売却ができる財産的価値であること


3.電子機器その他の物に電子的方法により記録されていて、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの


4.日本および外国の通貨、ならびに通貨建資産でないこと

 

以上の要件をすべて満たすものが1号の仮想通貨です。

 

2号仮想通貨(資金決済法2条5項2号)


1.不特定の者を相手方として1号仮想通貨と相互に交換ができる財産的価値であること


2.電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

 

以上の要件をすべて満たすのが2号の仮想通貨です。

 

お役所の表現ながら、その意図は理解できますが、要は

 

①特定の組織、金融機関の会員、参加者だけに使われるカードなどでなく、誰に対しても利用できるものであること


②日本円や米国ドルなど法定通貨に交換できるものであること


③ブロックチェーンなどを使った電子的システムを使った通貨であることが1号通貨とするポイントです。

 

また、2号通貨はその1号通貨と制限なく交換でき、同じように電子システムを使ったものである通貨を指します。

 

このような条件から、ビットコインをはじめとする仮想通貨は法定通貨ではありませんが、決済手段の一つとして定義されています。ただし、預金や債権といった通貨建資産、また前払い式の電子マネーは仮想通貨にあたらないとされています。

ICOに対する法整備は、まだこれから

(3)仮想通貨交換業の定義

 

●仮想通貨の売買または交換を行なうこと
●仮想通貨の売買または交換の媒介、取次ぎまたは代理
●上記二つの行為に関して、利用者の金銭または仮想通貨の管理をすること

 

まあこれは読んで理解できますね。

 

(4)仮想通貨交換業に関する規制

 

改正法によって仮想通貨交換業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行なう事ができなくなりました。この登録を受けた者を「仮想通貨交換業者」と言います。金融庁は2017年9月、「ビットフライヤー」をはじめとして11社の登録を認めました。その後、2017年12月26日の時点で登録社数は16社となっています。

 

この登録の条件としては、資本金が1000万円以上であり純資産額がマイナスでない株式会社であること、業務や法令遵守のために必要な体制の整備が行なわれていること等が挙げられます。

 

他にも投資家保護の観点から、投資家から預かった金銭や仮想通貨を、取引所自身が保有する資産と分けて管理する分別管理をすることも義務付けられました。登録業者は利用者保護のための信頼性確保と経営の安定性などが求められています。

 

(補足・参考)


金融庁がこの改正法の施行とともに重きを置くのが、「KYC」です。「KYC」とは「Know Your Customer」の略で、銀行に新規口座を開く際、銀行から要求される書類手続きなどのことです。口座を開設する個人あるいは会社の確認をし、マネーロンダリング対策(AML=anti-money laundering)とします。

 

このアンチマネーロンダリングを徹底するため、金融庁は2017年10月から「仮想通貨モニタリング長」という部署を新たに設立し、30人規模の専門チームを編成することで仮想通貨取引所の監視の強化に乗り出しました。

 

(5)ICOの規則

 

これらの仮想通貨への法規制を踏まえ、ICOの現況を説明します。

 

結論から言えば、ICOに対する法整備はまだ完成していません。しかし、国内外で急速に広がるICOについては、金融庁はじめ関係当局は積極的に情報収集をしており、近々その規制の概要が示されると思われます。

金融庁は、利用者・事業者の双方にICOの注意を喚起

<金融庁の方針>

2017年10月、金融庁は「ICOについて〜利用者及び事業者に対する注意喚起〜」を示しました。

 

この注意喚起は利用者と事業者のそれぞれ双方にICOの留意すべき点を表示しています。

 

利用者=投資家に対する内容は、

 

●ICOは価格下落や詐欺などのリスクがあるため、ホワイトペーパーなどから事業内容などをしっかり理解した上、自己責任で取引する必要があるということICOに関する不審な勧誘などには十分注意し、内容に応じて相談室に連絡をするように促しています。金融庁の今後の方針を示唆するのは、次の事業者向けの指摘です。「ICOの仕組みによっては資金決済法や金融商品取引法等の規制対象になる」とし、
●一定のトークンは資金決済法上の仮想通貨に該当すること
●そのトークンの「交換を業とする事業者」は内閣総理大臣への登録が必要となること

 

さらに「ICOが投資としての性格を持つ場合」は、仮想通貨による購入でも実質的に法定通貨の購入とみられるスキームは金融商品取引法の規制対象となる――など、今後具体化すると思われるICOの規制枠を示唆しています。

 

この事業者向けの注意喚起は、例えば「一定のトークン」という表現にみられるように、まだ規制枠の明確さ、具体性に欠けるところもあり、金融庁などにおいてその法整備が急がれていると思われます。

本連載は、特定の金融商品の推奨や投資勧誘を意図するものではありません。また、投資にはリスクがあります。積立による購入は将来の収益を保証したり、基準価額下落時における損失を防止するものではありません。投資はリスクを十分に考慮し、読者の判断で行ってください。なお、執筆者、製作者、幻冬舎グループは、本連載の情報によって生じた一切の損害の責任を負いません。

仮想通貨「ICO投資」入門

仮想通貨「ICO投資」入門

坂元 康宏

幻冬舎メディアコンサルティング

「投資初心者」から「上級者」まで。「ICO投資」完全マニュアルの完全保存版。いま、いちばん熱い投資、待望の入門書! ICOってそもそも何? 情報はどうやって手に入れる? 2018年に注目すべきICOプロジェクトとは?

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