「節税」とは、税法の枠内で税金を払い過ぎないようにすることである。知識を身につけ、税金の払い過ぎを避けることで、手元に残す現金を最大化させていこう。本連載では、不動産オーナーに特化した「節税策」を100選する。第3回目のテーマは、「不動産投資にまつわる支出…節税に有利な計上の仕方は?」。

建物の修繕…「修繕費」と「資本的支出」に分かれる

建物の修繕のための支出は、一事業年度の必要経費となる「修繕費」と、複数の事業年度の必要経費として配分される「資本的支出」に区別されます。これらの区別は非常に難しく、不動産オーナーにとっては、悩ましいところです。

 

修繕費とは、建物や設備の修理などに要した支出のうち、資産の維持管理のためのもの、価値が毀損した部分の原状回復を行うためのものをいいます。たとえば、壁紙の張替えや畳の取替え等です。これらは、その全額を一事業年度の必要経費とすることができます。

 

これに対して、資本的支出とは、建物や設備の修理などに要した支出のうち、資産の価値を高めるためのもの、耐用年数を長くするためのものをいいます。たとえば、大掛かりな改装工事(リノベーション)です。これらは、資産として計上し、減価償却を行うことによって、必要経費を複数年度に配分することになります。

資本的支出の減価償却が、資金繰りの悪化を招くことも

資本的支出の減価償却ですが、支出の対象となった資産本体と同じ耐用年数を適用することになります。たとえば、耐用年数が47年で、築20年の鉄筋コンクリートの建物を対象として資本的支出を行った場合、減価償却の期間は27年(=47年-20年)ではなく47年です。それゆえ、大きな支出に対して必要経費がとても小さいため、資金繰りを悪化させます。

 

ですから、資本的支出は可能な限り減らし、修繕費に計上したいと不動産オーナーは考えます。この、資本的支出であるか、修繕費であるかの区別は、とても難しいため、実務上は「形式基準」(所得税基本通達37-12、13)によって判定することになります。

 

この基準によれば、仮に資本的支出に該当したとしても、20万円未満の場合は、すべて修繕費とすることができます(ただし、分割払いを行って、その1回の支払いを20万円未満に抑えても、認められません)。

 

また、概ね3年以内の周期で修理や改良が行われているものは、すべて修繕費となります。そのため、前回の修繕費の記録を残しておくことが大切です。

 

さらに、資本的支出か修繕費か区別できないものであっても、60万円未満の支出、その固定資産の取得価額の10%以下の支出については、すべて修繕費となります。

 

そして、特例として、継続適用することを条件として、支出額の30%か、取得価額の10%のいずれか小さい金額を修繕費とし、残額を資本的支出とすることも認められます。

設備の取り替えは、修繕ではなく「資産の取得」に

エアコンや給湯器などの設備を新しいものに取り替える場合、これは修繕ではなく、資産の取得となります。すなわち、資産計上したうえで、減価償却を通じて、必要経費を期間配分することとなります。

 

ただし、1個10万円未満の設備は一括で必要経費とすることができます。また、青色申告の方に限り、1個30万円未満の設備は、総額300万円を上限として、一括で必要経費とすることができます。

領収書があれば、物件購入前の支出も必要経費にできる

サラリーマンの方など、まさにこれから不動産経営を始められる方は、どの段階から必要経費を計上することができるのか、気になることでしょう。物件を購入する前に、「不動産投資セミナー」を受講したり、不動産投資の専門書を買って読んだりする人がいるはずです。また、購入しようか検討している物件を、北海道まで視察に行くこともあるでしょう。

 

これらの支出は、実際に不動産オーナーになっていない段階であっても、必要経費とすることができます。さらに、不動産仲介業者との食事代はもちろん、自宅を事務所として使った場合には、光熱費、通信費なども必要経費とすることができます(プライベートな費用と按分します)。ただし、いったん「開業費」として資産計上し、不動産経営がスタートした後に、その償却によって必要経費に配分することとなります。

 

これを知らずに領収書を捨ててしまい、経費に入れない方が多いのですが、本当にもったいない話です。これから始まる不動産経営のために、領収書をきちんと保管しておくことを習慣にしましょう。

 

 

岸田 康雄

島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士

 

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本連載に記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり(2018年7月)、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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