「節税」とは、税法の枠内で税金を払い過ぎないようにすることである。知識を身につけ、税金の払い過ぎを避けることで、手元に残す現金を最大化させていこう。本連載では、不動産オーナーに特化した「節税策」を100選する。第4回目のテーマは、「小規模宅地等の特例」徹底活用術。

「小規模宅地等の特例」のよくある失敗事例

小規模宅地等の特例は、土地の相続に係る税負担を軽減することができる制度であり、必ず適用すべきものです。しかし、適用には要件があり、それを満たすことができるように、生前から確認しておかなければいけません。

 

「小規模宅地等の特例」よくある失敗事例① マイホームを購入してしまっている

 

たとえば、二次相続で特定居住用宅地の適用を受けるのであれば、相続人は同居しておくか、同居できなければ「家なき子」の要件を満たさなければいけません。しかし、資産家一族の子供は比較的裕福なケースが多く、自らマイホームを購入しているケースが多く見られます。その場合、特定居住用宅地の要件を満たすことができません。

 

「小規模宅地等の特例」よくある失敗事例② 土地まで法人所有にしてしまっている

 

所得税と相続税の節税手法として、不動産の法人化がありますが、土地を法人所有にしていると、小規模宅地等の特例を適用することができなくなります。一棟アパートやマンションを所有しているのであれば、建物だけ法人所有にすればよいのですが、土地まで法人所有にしていると、結果として相続税負担が重くなってしまうケースもあります。

 

「小規模宅地等の特例」よくある失敗事例③ 500㎡にわずかに足りない大きさの土地

 

近年の税制改正において、「地積規模の大きな宅地の評価」の制度が導入され、三大都市圏で500㎡以上の土地は、2割から3割、評価を引き下げることができるようになりました。

 

500㎡にわずかに足りない大きさの土地を所有されている方が、「地積規模の大きな宅地の評価」を適用できない状態のままになっているケースがあります。隣地を買い足すことも選択肢です。登記上の面積は、実際の面積よりも小さく記録されているケースのほうが多いですから、測量することで500㎡を超えることもあります。

「貸付事業用宅地等」の要件をいかに満たすか?

小規模宅地等の特例とは、相続財産に被相続人の住居用や事業用に使用していた宅地等で、自分または同居家族の自宅の敷地および自分たちがオーナーである会社が事業をしている店舗や工場の敷地について、配偶者や後継者が相続するときに、相続税を軽減しようという規定です。建物の敷地として使用されている場合、限度面積まで評価を減額することができます(贈与のときには適用されません)。

 

小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」とは、被相続人等の貸付事業(不動産貸付業等に限定)に使用されていた宅地等で、以下の要件のいずれかを満たす親族が相続または遺贈により取得したものをいいます。

 

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【要件1】被相続人による貸付事業を承継する場合

 

● 被相続人の親族が、相続開始時から中告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を承継すること。

● 貸付事業を承継した親族が、相続開始時から申告期限まで当該宅地等を継続所有していること。

● 貸付事業を承継した親族が、承継後、申告期限まで当該宅地等を貸付事業の用に供していること。

● 相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等を除外する(相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者は含まれない)。

 

[図表1]
[図表1]

 

【要件2】被相続人と生計同一の親族による貸付事業であった場合

 

● 被相続人から宅地等を取得した親族が、当該被相続人と生計を一にしていた者であること。

● 相続開始時から申告期限まで当該宅地等を継続所有していること。

● 相続開始の前から申告期限まで当該宅地等を自己の貸付事業のために継続使用していること。
 

[図表2]
[図表2]

 

小規模宅地等の特例の適用可否が問題となるケースとして、たとえば、親が所有している土地の上に親族が賃貸マンションやアパートを建てて経営している場合が考えられます。地主が自ら所有している土地で、「生計を同一にしていない親族」が賃貸経営をしている場合には、土地は使用貸借となり、特例を適用することはできません。

 

そこで、その「生計を同一にしていない親族」から賃貸用建物を贈与してもらうか、または購入しておくのです。そうすれば、貸付事業用宅地として200㎡まで50%減額を受けられるようになります。

 

また、所有している土地を、親族が役員となっている会社の事業用として使用している場合で、自分や同族関係者の出資割合が50%以下であるときには、50%超になるように株式を贈与してもらうか、または購入しておくべきでしょう。そうすれば、特定同族会社の事業用宅地として400㎡まで80%減額を受けられるようになります。これらのような相続対策を行って、小規模宅地等の特例の適用を受けられるようにしておく必要があります。

 

ただし、近時の税法改正で、相続開始前3年以内に貸付事業用に供された宅地等を除外することとされました。相続発生の直前に特例適用を目指すことはできなくなりましたので、注意が必要です。

地積規模の大きな宅地…無理してでも隣地を購入すべき

地積規模の大きな宅地(評価通達20-2)とは、以下の宅地を除き、三大都市圏で500㎡以上、それ以外の地域で1,000㎡以上の地積の宅地をいいます。評価が大きく引き下げられる制度であるため、500㎡を僅かに下回る状況であれば、無理してでも隣地を購入すべきでしょう。

 

【除外】

(1)市街化調整区域に所在する宅地

(2)都市計画法の用途地域が工業専用地域に指定されている地域に所在する宅地

(3)指定容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域に所在する宅

(4)評価通達22-2に定める大規模工場用地

 

地積規模の大きな宅地として評価される宅地は、路線価地域に所在するものについては、普通商業・併用住宅地区および普通住宅地区に所在するものとなります。また、倍率地域に所在するものについては、すべての地区が対象となります。

 

また、地積規模の大きな宅地は、路線価に、奥行価格補正率や不整形地補正率などの各種画地補正率のほか、規模格差補正率を乗じて求めた価額に、その宅地の地積を乗じて評価します[図表3]。

 

[図表3]
[図表3]

 

ここで、規模格差補正率は、[図表4]の算式により計算します(小数点以下第2位未満は切り捨てます)。これには、奥行補正率、側方路線加算率、二方路線加算率、不整形地補正率、間口狭小補正率、奥行長大補正率、がけ地補正率、容積率補正、セットバック補正などを併用することが可能です。

 

[図表4]
[図表4]

 

[図表4]の算式中の「B」 および「C」は、地積規模の大きな宅地の所在する地域に応じ、[図表5]に掲げる表のとおりです。

 

[図表5]
[図表5]

 

たとえば、三大都市圏で[図表6]のような600㎡の土地を評価する場合の計算例です。

 

[図表6]
[図表6]

 

[図表7]「地積規模の大きな宅地の評価」の適用対象判定フローチャート
[図表7]「地積規模の大きな宅地の評価」の適用対象判定フローチャート

 

 

岸田 康雄

国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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本連載に記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり(2019年6月)、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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