よくある失敗事例…「親の豪邸」が相続で資産を奪う!
実家は、東京都の郊外にあり、1,000㎡の広大な庭付きの豪邸です。子供は職場に近い都心部に住んでいます。その実家に一人で住む親に相続が発生しました。親が生前に話していたことは、「庭の手入れに手間がかかり維持費が高い」「高齢者の一人暮らしに、この家は広すぎる」などの不満でした。
しかし、親は死ぬまで実家を手放さずにいたのです。結果として、相続財産となった土地は5億円と評価され、相続税の納税資金が足りず、売却することになりました。結果として、親の財産は半分に減ってしまいました。
郊外の自宅を売って「都心へ移り住む」という選択肢
自宅が郊外にあるならば、その自宅を売却し、都心に新たな自宅を購入して、住み替えることも選択肢の一つです。それによって、相続税負担を軽減させることができます。
たとえば、郊外にある広くて地価が安い自宅に住んでいたとしましょう。「地積規模の大きな宅地」によって、2割から3割は評価を引き下げることができるかもしれません。
また、330㎡を限度に小規模宅地等の特例が適用されて80%が減額されます。しかし、広い自宅敷地の場合、330㎡を大きく超えてしまうため、土地が広ければ広いほど、特例適用できる330㎡が全体の地積に占める割合が小さくなってしまいます。土地の一部にしか評価減を行うことができなくなり、小規模宅地特例の効果が小さなものです。
そこで、都心に住み替えることを考えます。都心であれば、仮に同じ資産価値の土地であっても、地価が高い分だけ敷地面積は小さくなります。しかし、敷地面積が小さくなれば、結果として小規模宅地等特例を限度面積330㎡まで適用することができる可能性が高くなります。高級なタワーマンション区分所有物件の敷地面積が100㎡を超えることはほとんどありません。
つまり、小規模宅地等の特例には、土地の「面積」には限度がありますが、評価減の「金額」には限度がないということです。評価減の金額を大きくすればするほど、結果として税負担が大きく軽減されます。
このように、地方にある路線価の低い土地を手放し、都心にある路線価の高い土地へ組み替えると、大きな相続税対策となるわけです。
ここで自宅の売却に伴う譲渡所得税が気になるかもしれません。この点については、居住用財産を売却した場合の3,000万円特別控除が適用されますので、よほど大きな売却益が出ない限り税負担に苦しむことはないでしょう。
3,000万円特別控除とは、居住用財産を譲渡した場合にその売却益から3,000万円が控除される制度です。つまり、売却益が3,000万円以下であれば、所得税等は課税されないことになります。
この制度は譲渡資産の所有期間の長短は問いません。ただし、前年または前々年にこの特例や居住用財産の買換えの特例の適用を受けている場合には 適用することができません。また、その家屋が、当人の日常の生活状況などから生活の本拠として居住しているものでなければなりません。
さらに、居住用財産の譲渡には、長期譲渡所得の軽減税率の制度があります。譲渡した年の1月1日における所有期間が10年を超える居住用財産を譲渡した場合、3,000万円特別控除を適用した後の譲渡所得に軽減税率(6,000万円以下に14.21%)を適用することができます。
底地はもちろん「整理」しておくこと
収益性の低い不動産の代表例が「底地」です。底地とは、賃貸している宅地の所有権のことをいいます。自用地のように地主が自由に利用したり転売したりすることはできません。一方で、借地人との関係で利用上の制約を受けることなり、借地人以外の第三者に底地部分だけを売却することは困難です。
底地の収益率はよくても1%程度と極めて低くなる一方で、相続税評価は時価より高く評価されることから、所有するデメリットは大きく、積極的なメリットを見出すことができません。
底地の評価額は、自用地の評価額から借地権の評価額を差し引いた金額となります。割高な税負担を伴いますから、借地権を取り戻すか、底地を売却して現金化することを検討すべきでしよう。
貸宅地とは、借地人が地主の土地を有償で借りて、そこに自分の建物を建てている土地のことです。それゆえ、月極駐車場のように建物なしで貸している場合や無償(地代ゼロ)で建物を建てている場合は、借地権は発生しません。
民法上の借地権は、借地借家法の保護のもとにあります。そして、税法上の借地権の大きさは、国税庁が公表している路線価図に定められています。通常は、住宅地で60%、商業地では70〜80%です。その土地の60〜80%の価値が 借地人のものとなっているのです。
一方、地主の側の底地の割合は、100%から借地権割合を引いた残余分、つまり住宅地で40%、商業地では20〜30%となります。たとえば、1億円の土地があったとすると、借地権の価値が60%で6,000万円、底地の価値が40%で4,000万円ということになります。
底地の整理は、地主が借地人に底地を売却することや逆に地主が借地人から借地権を買い取ることが基本です。この点、一般的に地主は借地人から借地権を買い戻すことを非常に嫌います。「どうして自分の土地を自分のお金で買わなければならないのか」と思うからでしょう。
また、底地と借地権を等価交換してその敷地を一定割合で引き上げる方法や、地主と借地人が底地と借地権を第三者へ同時に売却する方法などがあります。
底地を所有したほうがよい唯一のケースは、底地が相続税の支払手段となること、すなわち「物納」の対象となる稀なケースです。税務当局は、物納の適格要件を備えていれば、底地も自用地と同様の支払手段としてくれます。物納であれば、底地であっても実勢価格よりも高い相続税評価額で価値を実現することができ、市場よりもはるかに高く底地を売ることができます。しかも、物納には所得税等はかかりません。
しかし、ほとんどのケースは、底地を物納することができません。それゆえ、底地は早めに売却すべきものと考えられます。売却して現金化し、それを他の不動産の投資に充てるほうが、高い利回りの運用を期待することができます。
相続税評価が低くて収益性が高い不動産とは?
不動産オーナーの方々の相続対策として検討すべきことは、個人財産全体の価値を維持するために、不動産の組替えを行うことです。たとえば、収益性の低い底地を手放し、小さくてもいいですから、収益性の高い区分所有マンションに買い替えることは効果的です。
不動産の組替えの理想は、相続税評価が高くて収益性が低い不動産を、相続税評価が低くて収益性が高い不動産に買い換えることです。結果として、相続税評価を圧縮するとともに、収益性を向上させることができます。
また、小規模宅地等の特例を最大限に活用するため、親の実家であれば、地方から都心へ住み替える方法が効果的です。
これは、賃貸不動産についても活用することができます。賃貸不動産であれば、小規模宅地等の特例(貸付事業用)を使うことができます。すなわち、被相続人の賃貸アパート・マンションの敷地については、200㎡を限度に50%が減額されます。このため、地方や郊外にある路線価の低い土地を手放し、都心にある路線価の高い土地へ組み替えることによって、相続税対策を行うことが可能です。
このときのポイントは、買替えによって相続税評価と取得価額(市場価格)との乖離を拡大させることです。具体的には、郊外にある収益性の低い賃貸不動産を売却し、都心にある区分所有マンションに買い換えることです。
都心の収益物件は、利便性も良いため賃貸物件として人気がありますが、その価格は下がりにくく、売却しやすいものであるため、資産価値を高く維持することができます。何よりも都心の区分所有マンションの相続税評価は、取引価額を大きく下回るため、相続税負担を軽減することができます。
このため、資産価値が同じであれば、地方の収益物件を保有するよりも、都心の収益物件を保有すべきなのです。
都心にある区分所有のタワーマンションやワンルームマンションは、相続税評価と市場価格の間に大きな乖離がありますので、相続税評価額が低くなります。また、賃貸マンションには借地権と借家権の減額がありますので、相続税評価は約2割を引き下げることができます。さらに、小規模宅地等の特例の適用によって、評価を50%引き下げることができます。
地方や郊外で賃貸経営を行う不動産オーナーの方々は、都心の区分所有マンションへの買い替えをぜひ検討してみてください。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
岸田康雄氏 登壇セミナー>>12/18開催
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~相続人調査、財産調査、遺産分割協議~