相続税対策の定番「借金してアパート」は今でも有効なのか?

「節税」とは、税法の枠内で税金を払い過ぎないようにすることである。知識を身につけ、税金の払い過ぎを避けることで、手元に残す現金を最大化させていこう。本連載では、不動産オーナーに特化した「節税策」を100選する。第6回目のテーマは、相続税対策の定番である「借金してアパート」の効果とリスク。

「借金してアパート」はなぜ節税となるのか

「借金してアパート」はハウスメーカーから提案される典型的な相続税対策の手法です。その目的は、自用地に賃貸アパートまたはマンションを建築して、財産評価を引下げることにあります。

 

相続税評価において、土地は路線価方式(または倍率方式)が適用されます。土地の用途が青空駐車場や更地の場合は、自用地評価となり、相続税負担が最も重い状態です。それでも、現金を土地に換えますと、それだけで相続税評価は約2割下がります。

 

そして、土地にアパートまたはマンションを建てると、その敷地は、自用地から貸家建付地へと変わります。貸家建付地になると、土地評価は路線価ベースで約2割下がり(借地権×借家権を控除)、相続税対策につながります。

 

たとえば、実勢価格1億円の青空駐車場に賃貸アパートを建てますと、その評価は、概ね約6,500万円(≒1億円×80%×80%)程度まで引下げられることになります。

 

[図表1]土地の評価方法
[図表1]土地の評価方法

 

一方、建物の取得にも相続税対策の効果があります。建物の相続税評価は、固定資産税評価額ですが、固定資産税評価額は実際の建築費用の約5割程度であり、加えて、賃貸したときに借家権30%が控除されるため、その評価は大きく引下げられます。たとえば、1億円で建築した建物の評価は3,500万円(=1億円×50%×70%)まで引下げられることになります。

 

土地1億円と建物1億円で合計2億円の財産は、土地6,500万円と建物3,500万円で合計1億円まで半減させることができました。建物の固定資産税評価額は、3年ごとに行われる評価換えによりその都度減少していくので、建築してから年数が経つほど評価減効果は大きくなります。

 

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このように、駐車場として所有していた土地の上に賃貸アパートまたはマンションを建てることによって、土地と建物の両方の相続税評価を引下げることができるのです。

 

建築のための資金が手元にない場合、借入金で資金調達を行っても同様の効果があります。借入金は債務控除として相続財産からマイナスされるからです。これが、いわゆる「借金してアパート」という伝統的な節税手法です。

 

「借金してアパート」について、集中的に理解するため、具体的な数字を使った計算例を見ることにしましょう。

 

路線価ベースの評価額1億5千万円(=300㎡×500千円)の青空駐車場に、1億円の賃貸マンションを全額借入金によって建築した地主に相続が発生した場合を考えてみます。

 

まず、土地の評価は、借地権割合70%および借家権割合30%を考慮して、118百万円まで引下げられます。加えて、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地)を適用するならば、200㎡まで50%評価減となるため、さらに40百万円(=118百万円÷300㎡×200㎡×50%)が減少します。したがって、土地の評価額は79百万円です。

 

一方、建物の固定資産税評価額は、建築費用の概ね50%、すなわち約50百万円ですが、借家権割合30%の評価減を考慮すると、相続税評価額は35百万円となります。

 

[図表2]評価下げのイメージ①
[図表2]評価下げのイメージ①

 

[図表3]評価下げのイメージ②
[図表3]評価下げのイメージ②

 

ここで忘れてはならないのは、債務控除としての借入金100百万円です。もちろん返済された分は減っていますが、マイナスの財産として相続人へ引き継がれます。

 

以上を合計しますと、この計算例における賃貸マンション(土地+建物-借入金)の評価額は、14百万円(≒79百万円+35百万円-100百万円)となります。更地で保有していた場合、土地は150百万円の評価でしたが、一気に10分の1まで引下げられる結果となりました。

賃貸アパートは「収益性低下」のリスクを伴う

「借金してアパート」は、このように、相続税対策として極めて効果的な手法です。しかしこれは、家賃収入によって借入金が返済できること、すなわち、収益性を落とさずに賃貸経営のキャッシュ・フローを維持できることを前提としたものです。しかしながら、近年、相続税対策として建築した賃貸アパートの経営において、収益性が低下し、キャッシュ・フローが赤字になるケースが増えています。

 

アパートやマンションを建築することによって、残された配偶者や子供たちが賃貸経営を引き継ぎ、家賃収入が家計の足しになるのであれば問題ありません。しかし、賃貸経営が予想以上に煩雑であったり、キャッシュ・フローの赤字であったりすると、相続人はいっそのこと不動産を売却したいと思うかもしれません。

 

ところが、収益性の低い不動産は、いざ売ろうとしても簡単に売ることはできません。買い手が見つからないからです。

 

最悪なのは、人居率が想定よりも下がってしまい空き部屋が埋まらないケースです。キャッシュ・フローがマイナスとなってしまえば、仮に売却できたとしても売却価格は二束三文でしょうから、不動産オーナーには借金だけが残ってしまいます。

 

相続税対策でアパートやマンション建築を行うのであれば、賃貸経営の収益性を事前に検討しておくことは不可欠です。安易にハウスメーカーの事業計画を信用してはなりません。

 

 

岸田 康雄

国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

平成29年経済産業省「事業承継ガイドライン改訂小委員会」委員、日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、金融機関に在籍し、中小企業オーナーの相続対策から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継と組織再編のアドバイスを行った。

WEBサイト https://fudosan-tax.net/

著者紹介

連載不動産オーナーのための「節税策」100選

本連載に記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり(2019年6月)、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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