プライベートな支出と必要経費の線引きはどこか?
個人経営の不動産オーナーの場合、「不動産所得から差し引かれる経費を正しく計上する」ことが節税のポイントです。必要経費をしっかりと計上することは、所得税の節税をもたらします。
では、どのような費用が必要経費として計上できるのでしょうか? 不動産管理会社に支払う管理費用、建物の減価償却費、借入金の支払利息は、必要経費として明確なものです。疑いの余地はありません。
しかし、必要経費になるか否か悩ましい費用があります。なぜなら、個人経営を行う不動産オーナーは、不動産経営のための支出と、日常生活のための支出を、同じ財布で行っているからです。当然ながら、日常生活のための支出は、必要経費とすることができません。
不動産オーナーが行った支出のどこまでを、必要経費にすることができるか? 本記事を機会に、正しく知っていきましょう。
飲食費は「誰と一緒に行ったのか」を必ず記録しておく
■ 研修費
筆者も講師を承ることが多い「大家さん向けセミナー」「不動産経営セミナー」の受講料は、必要経費となります。また、セミナー終了後に開催される懇親会への参加費も、必要経費(交際費)となります。さらに、セミナーを受講するために必要な交通費や宿泊費も必要経費(旅費交通費)となります。そして、不動産投資に係る専門書籍を購入したときも、それは必要経費となります。
しかし、不動産だといっても宅地建物取引士の資格取得のための受験講座の受講料は、不動産経営に関係するものではありませんから、必要経費とすることはできません。
なお、必要経費になるからと言って、単なる自己満足だけで役に立たないセミナーを受講しても、将来の収益獲得に貢献しないため、意味のない無駄な経費となります。
■ 交際費
食事代については悩ましいものです。購入しようか悩んでいる物件を見に行ったときに外食した食事代については、誰と一緒に食べたかによって必要経費になるか否かが決まります。自分1人で食べたり、家族や友人と一緒に食べたりしたときは必要経費とすることはできません。しかし、不動産管理会社の営業担当者と一緒に食べたときには、居酒屋で飲んでも、キャバクラで遊んでも必要経費(交際費)となります。それゆえ、飲食費の領収書には誰と一緒に食べたのかを、記録しておかなければいけません。
■ 旅費交通費
自分が所有する物件を見に行ったり、購入しようか迷っている物件を見に行ったりするときの交通費や宿泊費は、必要経費とすることができます。交通費は、電車賃、バス代、タクシー代だけでなく、ガソリン代、駐車場代、高速利用料も含みます。
ただし、遠出するような場合、遊びに行ったのかどうか明確に区別できないケースが多いため、当日に視察した物件の写真を撮影しておくなど、不動産経営のための経費である証拠を残しておく必要があります。
■ 自動車に関する費用
不動産経営のために自己所有の自動車を使用する場合、ガソリン代、駐車場代、高速利用料は当然のこと、洗車代、自動車税、自動車保険料、修理代、車検費用まで幅広く必要経費とすることができます。
ただし、自動車をプライベートで使用することもあるでしょうから、不動産経営のために使用した費用とプライベートで使用した費用は、合理的な基準で按分しなければなりません。
■ 事務所に関する費用
自宅を不動産経営のための事務所として使用している場合、プライベートな居住部分と事務所部分に分けて費用を計上することになります。たとえば、(賃借している場合の)家賃、水道光熱費、電話代、インターネットの通信費用などです。これらは、不動産経営のために使用した費用とプライベートで使用した費用に、合理的な基準で按分しなければなりません。
按分基準について、特に決まったものはありませんが、面積按分などを行うこととなるでしょう。それゆえ、自宅の中でパーティションで区切った事務スペースを設け、客観的に面積を測定できる状態にしておかなければいけません。パーティションを設けるなど邪魔だ!とおっしゃるかもしれませんが、邪魔だということは、換言すれば、不動産経営の事務作業を行うために必要としている証拠となります。
家族旅行の費用を「必要経費」とするのは難しい
■ 従業員と一緒に行く慰安旅行
「家族と一緒に行った旅行の費用を何とか経費に入れたい」というご要望を聞くことがよくあります。この点、厳しい要件が2つあるのです。一つは、旅行が4泊5日以内であること。それを超えると必要経費には入りません。もう一つは、参加者が職場全体の従業員の人数の50%超であることです。
ここで、「うちの従業員は全員家族だ」「家族全員連れて旅行に行ったぞ」とする不動産オーナーが多いと思います。しかし、個人経営の場合、青色事業専従者である家族と一緒に慰安旅行に行っても、その費用は必要経費とすることができません。従業員は、「親族外」であることが必要なのです。親族外の従業員に家族が混ざっているのであれば、必要経費とすることができるでしょう。
■ 青色申告
これは節税策というよりも、制度上の特典を使うかどうかという話です。事業的規模で不動産経営を行っている場合(5棟10室以上)、複式簿記で記帳し、損益計算書だけでなく貸借対照表も作成して確定申告に添付することによって、65万円の所得控除を行うことができます。
同様に事業的規模であれば、家族に対して青色事業専従者給与を支払うことができ、それを必要経費とすることができます。
たとえば、不動産所得2,000万円の不動産オーナーが、年間約700万円の所得税等を負担していたとしましょう。ここで、奥様に青色事業専従者給与を600万円支払うとすれば、奥様は年間約80万円の所得税等を負担することになりますが、ご主人の不動産所得が1,400万円に減少することで、所得税等の負担が年間約450万円になります。したがって、税金をトータルで見ると、約▲170万円の減少となります(=450万円+80万円-700万円)。
生計同一の夫婦であれば、どちらが所得を稼いでも実態は変わりませんので、青色事業専従者給与によって節税することができます。