「節税」とは、税法の枠内で税金を払い過ぎないようにすることである。知識を身につけ、税金の払い過ぎを避けることで、手元に残す現金を最大化させていこう。本連載では、不動産オーナーに特化した「節税策」を100選する。第8回目のテーマは、賃貸不動産の法人化が「相続税対策」となるスゴい仕組み。

法人化によって「贈与税の負担」を軽減

相続税対策のために建築したアパートやマンションを子供に贈与することを考えてみましょう。借入金を土地や建物とセットで贈与する場合は、負担付贈与となるため、土地や建物が時価評価されることに注意しなければなりません。相続税評価ではないのです。

 

負担付贈与とは、第三者などに対して債務(借入金、預り保証金など)を引き継ぐことを条件として、資産を贈与することです。受贈者は、資産をもらうかわりに、一定の債務を負担します。たとえば、相続税評価額350万円の土地であっても、その土地の時価(通常の取引価額)は、相続税評価よりも高くなっているはずです。たとえば、通常の取引価額500万円であったとしましょう。土地を贈与する際に、借入金350万円を引き継ぐとすれば、負担付贈与となります。

 

[図表1]負担付贈与
[図表1]負担付贈与

 

負担付贈与を受けたときは、贈与対象の資産(土地や建物)の通常の取引価額から借入金を差し引いた金額に対して、贈与税が課されます。つまり、相続税評価ではなく、通常の取引価額に基づいて贈与税が計算されるということです。したがって、負担付贈与となるときは、贈与税負担が重くなるのです。

 

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そこで、不動産所有法人を設立し、その法人が借入金によって資金調達を行うとともに、法人が不動産を購入します。そして、その法人の株式(または持分)を生前贈与することを考えます。不動産所有法人の株式を贈与する場合、負担付贈与として取り扱われることがないため、不動産の相続税評価によって贈与税を計算することができます(ただし、不動産の取得から3年間経過後)。この結果、不動産と借入金のセットを、軽い税負担によって生前贈与することが可能となるのです。

「管理委託方式」と「転貸借方式」

賃貸不動産の法人化スキームは3つあります。その1つは、「管理委託方式」です。これは、土地や建物の名義は個人のものとし、家賃の集金や物件の維持 管理などを不動産管理法人に代行させる仕組みです。

 

通常であれば、不動産オーナー向けの賃貸管理業務を手掛ける外部の専門業者に頼むことが多いのですが、法人化スキームを実施する際には、あえて自分の不動産を管理する法人を設立するわけです。

 

不動産オーナーは、自分が所有する不動産から生じる家賃収入の一部を管理料として不動産管理法人に支払います。支払われた管理料は不動産管理法人の売上となり、維持費、人件費などを賄うことになります。管理料の支払いはオーナーの所得の計算上は必要経費となり、個人の不動産所得を減額することができます。これによって、税負担を軽減することができるわけです。

 

[図表2]管理委託方式
[図表2]管理委託方式

 

一方、「転貸借方式 (サブリース方式)」とは、オーナー個人が所有する賃貸不動産を法人へ転貸借するスキームです。この場合、不動産管理法人が賃貸不動産を一括で借り上げることになります。法人は受取賃料と支払賃料の差額を利益として得ることができます。

 

すなわち、不動産管理法人は、オーナーに対して借上げ賃料を支払い、その一方で借り上げた物件の入居者から賃料を受け取ります。このとき、賃料の差額によって利益を計上し、管理費用を負担します。そこから役員や従業員に給料を支払えば、それは経費となります。

 

転貸借方式では、自分で設立した法人を使ってサブリースを行うことで、賃貸経営の利益の一部を法人のものとし、不動産オーナーの所得分散効果を図ることができるのです。


 

[図表3]転貸借方式
[図表3]転貸借方式

 

管理委託方式と転貸借方式のいずれにおいても注意しなければならないのは、不動産オーナーが自ら不動産管理法人を設立した場合、税務調査において、その法人に管理業務の実態があるかどうかがチェックされることです。

 

一般的に、外部の管理業者に対して管理業務を委託した場合、その管理料はせいぜい家賃収入の10%前後です。数十%など10%を超える管理料というのは明らかに払いすぎでしよう。近年、税務署は相場を超える管理料の支払いについて厳密にチェックしますので、賃料設定は10%を超えない水準に設定する必要があります。

 

同様に、転貸借方式の場合であっても、不動産オーナーから相場より明らかに安い賃料で一括借上げを行い、法人が大きな利益を稼いでいるケースがあります。このような場合は、不動産オーナーから同族会社に対して利益を不当に付け替えているとして税務署に否認されるリスクがあります。自らサブリースを行うのであれば、適正な借上げ賃料を設定しなければなりません。

「不動産所有方式」が最適なスキーム

不動産アパートやマンションを、個人で建築または購入した場合、賃料収入が継続することになり、その蓄積によって将来の相続財産が増加し、相続税負担が大きくなっていきます。これでは相続税対策が不十分でしょう。

 

そこで、賃料の付け替えである管理委託方式や転貸借方式と異なり、法人に不動産を所有させて100%賃料を計上するスキームを使うことになります。建物を法人に移転することによって、賃料収入を法人が直接受け取ることになります。これが不動産所有法人による相続税対策です。

 

[図表4]不動産所有方式
[図表4]不動産所有方式

 

地主の方々はもともと個人で土地を所有していますから、その土地に新たに法人名義で建物を建築するか、すでに所有する個人名義の建物のみを法人に売却または現物出資します。

 

この不動産所有方式は、賃料を法人に留保するとしても、個人の所得税率が法人税率よりも高い状況であれば、この税率差を利用することができます。

 

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個人の場合、不動産所得として総合課税されるため、所得税等の負担は15〜55%となりますが、法人の場合、実効税率は所得800万円以下の中小法人で20~25%、800万円超でも35%です。大まかにいえば、課税所得が800万円を超えていれば個人よりも法人のほうが税負担は軽くなります。

 

[図表5]不動産経営に係る個人と法人の有利不利判定
[図表5]不動産経営に係る個人と法人の有利不利判定

 

また、建物を法人所有とすることによって不動産という資産を非上場株式に転換することができます。非上場株式の評価であれば、類似業種比準価額の計算を行うことができ、他の資産よりも評価引下げによる相続税対策が容易になります。

 

[図表6]不動産所有法人における所得分散効果
[図表6]不動産所有法人における所得分散効果

 

設立時の法人の株主を、現在の不動産オーナー(親)ではなく、その後継者である子供とすることで、不動産所有法人に蓄積される利益を生前から移転させることができます。すなわち、不動産所有法人で蓄積する利益を子供とすることによって、現在のオーナー個人の将来的な相続財産の増加を停止させることができるのです。これによって、相続税負担を軽減させることができます。

 

また、法人の所得分散による節税効果を享受することもできます。すなわち不動産所有法人から配偶者や子供に役員給与を支払うことで、所得の分散効果を享受することができます。この場合、給与所得控除の適用を受けることができることに加えて、累進課税の税率の低下、親族内の税率差を利用した相続税対策を行うことが可能となります。

 

将来の相続発生時においても、不動産所有法人で資金を蓄積しておけば、個人で所有していた土地を買い取ることができます。また、法人が自己株式を買い取ることができます。いずれも購入代金を法人が相続人へ支払うことによって、相続人の納税資金を捻出することができます。もちろん、不動産所有法人で法人契約の生命保険に加入しておけば、死亡保険金という財源を確保することができるでしょう。

 

以上のように、不動産所有法人を設立することによって、生前贈与の促進、後継者への財産の早期移転という効果を享受することができ、効果的な相続税対策を実施することができるのです。

不動産所有法人には建物のみを移す

不動産所有方式を採用する場合、基本的に土地は法人には移さず、建物のみを移します。なぜなら、土地の譲渡に伴って所得税負担が生じるからです。

 

土地の譲渡所得税については、たとえば土地の譲渡価額が1億円であったとしても取得費が不明の場合には、9,500万円(=1億円-(1億円×5%))に課税されるため、長期譲渡の税率20.315%を適用することで、1,930万円程度の税負担が生じることになります。

 

法人による買取資金は、オーナー個人に対する債務(未払金)として分割で返済します。返済期間は10〜20年となるでしょう。もちろん、銀行からの融資でも構いません。

 

個人から法人への建物の譲渡価額は、同族関係者間の取引であることから、適正な時価による評価が求められます。この場合の時価は、様々なケースがあるものの、一般的には帳簿価額(未償却残高)で評価するケースが多いようです。

 

[図表7]不動産所有法人のメリットとデメリット
[図表7]不動産所有法人のメリットとデメリット

 

[図表8]建物のみを譲渡
[図表8]建物のみを譲渡

 

建物を法人へ移す際には、登録免許税(固定資産税評価額の2%)、不動産取得税(固定資産税評価額の3%)、消費税(取引価額の8%~10%)などのコストが発生します。

 

個人が土地を所有し、法人が建物を所有する場合、法人が借地権を取得することとなり、権利金の支払いが問題となります。しかし、法人から個人へ権利金の支払いが行われることは通常ありません。ただし、何もしなければ、借地権に係る認定課税のリスクを伴います(法人へ借地権相当額の贈与が行われたとみなされます)。

 

そこで、土地の賃貸借契約を締結して通常の地代を支払うこととしたうえで、土地の無償返還に関する届出書を税務署に提出します。これによって、個人が所有する土地の相続税評価を20%減少させることができます(法人には同額を資産計上します)。

 

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ただし、多額の繰越欠損金を抱える既存の法人に建物を移そうとするなれば、効果的な節税手段があります。無償返還の届出書を提出せず、あえて借地権を発生させるのです。そうすれば、個人の土地の相続税評価は、借地権割合を控除した底地だけの評価額(借地権割合が70%であれば30%)まで大きく下がることになります。

 

一方の法人においては、借地権相当の受贈益と繰越欠損金を相殺することができます。会計上も、貸借対照表における債務超過が解消され、健全な財政状態として見せることができるでしょう。

 

[図表9]借地権の認定課税
[図表9]借地権の認定課税

 

法人が建物を取得してから3年間は注意

注意すべき点は、法人設立後の自社株式の評価にあたって、その資産である建物が、法人へ譲渡または現物出資されてから3年間は通常の取引価額で評価されることです。それによって、建物の評価額は、固定資産税評価額よりも高くなり、その3年間は法人の自社株式の評価額が高くなります。

 

それゆえ、親の相続が3年以内に発生しそうな危ない状況にあれば、法人化による相続税対策は行うべきではありません。
 

 

 

岸田 康雄

国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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本連載に記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり(2019年6月)、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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