少子高齢化、医師の需要低下で収入減の可能性も
医師を取り巻く社会情勢も厳しさを増しています。第一に挙げられるのは、少子高齢化に伴う変化です。少子化で患者数が減少することに加え、高齢化の進行により医療保険財政が悪化し、その対策として診療報酬の引き締めが行われています。
診療報酬は、病院の収益の柱です。診療報酬の引き下げはそのまま病院の収益悪化につながり、当然ながら勤務医もその影響を免れないでしょう。実際、民間病院が経営悪化から倒産や廃業に至る例はもはや珍しくありません。
また、将来的には患者数の減少と医師数の数、つまり需給が逆転すると予想されています。厚生労働省「医師の需給に関する検討会」が2016年に行った「将来の医療需要と医師数(供給)の推移予測(医師の需給推計)」では、最も需要が多い想定でも2033年ごろに医師の需要と供給が均衡し、40年には供給が需要を約1.8万人も上回ると推計されています。
現在は医師不足が問題となっており、それが結果として高収入につながっています。しかし、供給過剰となれば過当競争になって収入が減るだけではなく、一般企業のようにリストラの対象になる可能性もあるでしょう。
[図表]診療報酬改定の推移
多額の開業資金、子供の医学部進学費用・・・
収入の先細りが明白である一方で、医師が必要とする支出はなかなか減らせないようです。独立して個人医院の開業を目指す方であれば開業資金の準備をする必要がありますし、親の医院を引き継いでいるという方でも、老朽化した医療機器や建物のリニューアルなど、医院経営には大きな出費がつきものです。
また、将来自分の子供を医者にしたい場合は、医学部進学のための教育資金が必要となります。私大か国立かなどによっても違いますが、一人前の医師になるまでにかかる教育費として、3000万~6000万円程度は見込んでおく必要があります。
医師特有のワーキングスタイルも老後不安の一因です。好待遇を求めて転院を繰り返していると、退職金は期待できません。また「アルバイト」の収入は年金保険料の計算に反映されないため、現役時代にアルバイト収入が多かった人ほど、老後の年金額との落差が大きくなります。
大手企業に勤めるサラリーマンが、企業年金や退職金といった手厚い制度に守られているのに比べると、現時点では高収入でも、老後の生活設計に不安を覚えている医師は多いのではないでしょうか。