不動産投資は「物件購入」という入口で成否が決まる
一言で医師といっても、実際はその勤務実態や年収は様々で、お金に関するリテラシーにも個人差があります。本業である医療の分野では非常に優秀であっても、お金のことにはまるっきり疎いといった人も多いようです。
不動産投資は魅力的な資産運用方法ですが、動かす金額も大きいため、失敗すると大きな損失を被ることもあります。
なお、不動産投資における「失敗」の定義についてですが、私は「購入から売却までトータルでみて損失が出ること」だと捉えています。
不動産から得られる収入には大きく分けて、インカムゲイン(家賃収入)とキャピタルゲイン(売却した時の転売益)があります。家賃収入だけを見ると毎月の収支が赤字で失敗したと感じていても、売却したらキャピタルゲインが得られて結果的には成功だった、というケースもあります。また、不動産を持つことによって得られる節税メリットも見逃せません。
長い年月のなかでは景気や相場の変動がありますので、実際に売却して税金を払い、利益を確定してみるまでは、最終的な不動産投資の成否は判断できないのです。
しかし、最近増えているのは、安易に収益性の低い物件を購入してしまい、毎月の返済が赤字になり、運営が立ち行かなくなるケースです。家賃下落や空室の増加は返済比率が高い場合は死活問題です。数部屋の空室であれば、本業の収入から補塡することもできますが、投資の規模が大きくなればどこかで追いつかなくなります。そうなれば物件は任意売却や競売、残った残債は分割で返していくか、最悪の場合は自己破産するしかありません。これは明らかに失敗だといえるでしょう。
不動産投資は一種の装置産業なので「どんな物件を購入するか」という入口で成否が決まるといっても過言ではありません。自ら勉強して最低限の不動産投資に関する知識を身につけること、そしてパートナーとして信用できる不動産業者を見つけることが重要です。
高属性で融資を受けやすい医師を狙う不動産業者たち
医師は高属性で融資が受けやすいため、多くの不動産業者が営業先として医師を狙っています。なかには、そうした不動産業者の営業トークを信用して、収益性の低い物件を購入し、結果的に失敗してしまう人もいます。
収益性の低い物件を購入してしまった場合、なぜ失敗につながるのか、順を追ってみてみましょう。
<空室による赤字、原状回復や入居付けのコスト負担・・・収益性の低い物件を購入してしまった場合>
①空室が埋められず、赤字になる
②原状回復や入居付けのコスト負担がかさむ
③売りたくても売れない
④最悪の場合は破綻、自己破産に・・・
①空室が埋められず、赤字になる
特に地方物件の場合、人口の減少から空室が増加し、一度空室が出るとなかなか埋まらないというケースも少なくありません。周辺の空室率が高いと値下げ競争になり家賃相場が下落するため、満室でも当初の想定利回りは得られなくなります。想定家賃が入らなければ、毎月の赤字分は本業収入から補塡して支払う必要があります。
②原状回復や入居付けのコスト負担がかさむ
さらには、空室が増えるほど、入居者募集に必要なコスト(広告費や原状回復費)も捻出できないという悪循環に陥ります。加えて、空室が多く過当競争が生じている地域では、自分の物件に優先で客付けしてもらうために、不動産会社に広告費を2カ月、3カ月と上乗せして払うことも珍しくありません。
「管理会社からの電話が鳴るたび、また退去か修繕の要請か、と生きた心地がしません」――これは、空室に悩む大家さんたちが一様に口にする言葉です。ただでさえ本業で忙しい医師が、そのようなストレスに耐えられるでしょうか。
③売りたくても売れない
では、物件を売ればスッキリするかというと、それも一筋縄ではいきません。
赤字物件は売りにくく買い叩かれるうえに、自己資金を抑えた、高割合・長期・高金利の融資を受けている場合は残債の減りが遅くなります。売却額との差額を埋める現金がなければ、売りたくても売れないのです。また、地方の築古物件の場合、耐用年数以上の融資をしてくれるのは、ごく少数の地方銀行に限られますので、買い手も非常に限定されてしまうのです。
④最悪の場合は破綻、自己破産に・・・
このような失敗パターンに陥った場合、最終的にどうなるのかといえば、いくつかのケースが考えられます。
例えば売却(他の資産で赤字を埋め、売却で損切り)、借り換え(借りている金融機関に金利引き下げ交渉、他の金融機関への借り換えを打診)、買い増し(他にキャッシュフローの出る物件を買い増しし、毎月の収支を改善)、保有(いずれの方法もとれない場合、毎月の赤字に耐えながら、維持して残債が減るのを待つ)などです。ローンや税金の支払いが滞った場合は、任意売却、競売となります。
なお、物件が任意売却や競売にかかった場合は、残債<売却価格の場合、差額分の負債が無担保債権として残りますので、この負債は分割で返済していくことになります。金額が大きく返済が難しい場合は、自己破産を選択せざるを得ないケースもあります。
鉄羅 敦士
PLAC株式会社 代表取締役社長