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時給1,280円のアルバイト生活、スタートでつまづく
かつてメーカーに勤めていた、ごく普通のサラリーマンだったという松下誠さん(66歳・仮名)。30年以上働き、60歳の定年を迎えたとき、退職金2,200万円を受け取りました。「もう十分に働いた」と思っていましたが、老後を見据えると働かないといけない――。松下さんが働いていた会社では再雇用制度により、65歳まで働くことができました。「本当は定年で仕事を辞めたいけど」というのが本音ではありましたが、松下さんは結局、65歳まで勤め上げました。
65歳になると、年金生活に入る同世代も増えるなか、松下さんはアルバイト生活を始めます。時給1,280円。契約社員時代と比べて収入はさらに減り、20万円を割るようになると生活が急に苦しくなりました。まず最初に苦しめられたのは、想像以上に重い「固定費」の存在です。 賃貸マンションの家賃は月9万5,000円。さらに、電気・ガス・水道・携帯代に加え、生活必需品の購入費用。食費を切り詰めても、月々の支出は簡単には減りません。 「まさか、こんなに余裕がないとは思わなかった――」。松下さんは苦笑いを浮かべながら振り返ります。
【単身高齢者の1ヵ月の平均支出】
消費支出…14万9,033円(住居費を除く12万6,114円)
(内訳)
・食料…4万0,527円
・住居…1万3,103円
・光熱・水道…1万4,434円
・家具・家事用品…2,272円
・被服及び履物…3,420円
・保健医療…8,178円
・交通・通信…1万6,230円
・教養娯楽…1万5,748円
・その他の消費支出…3万1,174円
出所:総務省『家計調査年報 家計収支編 2023年』
最初に携帯電話が止められました。松下さんは気づかないうちに、支払いが1ヵ月遅れていたのです。アルバイト代の振込日と引落し日がずれたことが原因でした。 わずか数千円の滞納であっても、携帯電話は比較的すぐに止められます。現代社会において、携帯電話のない生活は想像以上の不便さです。
「焦りました。でも、すぐ復旧できると思ってたんですが」
ところが、その後も出費がかさみ、支払いの優先順位をつけざるを得ない状況に追い込まれました。 家賃を払わなければ住まいを失う。食費を削れば体が持たない。 電気代、ガス代、水道代、通信費――すべてが重くのしかかるなか、松下さんはいったん携帯電話を諦め、最低限の生活を守ることを選びました。
しかし、さらに状況は悪化。ある日はアルバイトから帰宅し、玄関のスイッチを押しても、部屋の電気がつきませんでした。「ブレーカーが落ちたのか?」 最初はそう思いましたが、何度確認しても復旧しない。次の瞬間、松下さんの脳裏に、数週間前に届いた「供給停止予告」の紙がよみがえりました。
寒い冬の夜、電気がない生活は想像以上に厳しいものでした。 暖房器具も使えず、携帯電話はすでに止まっていたため、外部との連絡手段もありません。「本当に、自分は何をやっていたんだろう」 情けなさと悔しさが、思わず涙が込み上げてきたといいます。