フリーキャッシュフローを計算し、企業価値を判断
株や債券だけでなく、企業そのものの価値についても同様の発想で求めることができます。まずは、企業価値をDCF法によって求める手順を見てみましょう。
ステップ1(将来キャッシュフロー)から考えます。企業が生み出す将来キャッシュフローのことを、フリーキャッシュフローといいます。英語(Free Cash Flow)の頭文字を取って、FCFと書かれることもあります。フリーキャッシュフローは、企業が営業活動により生み出したキャッシュフローから、現在の事業を維持するために必要な投資キャッシュフローを差し引くことで求めるもので、企業が自由に使えるお金を表しています。フリーキャッシュフローは、財務諸表の数値を使って、以下のように求めることができます。
フリーキャッシュフロー=営業利益×(1-法人税率)+減価償却費
-設備投資-運転資本の増加額
企業が営業活動により生み出したお金を考えるので、営業利益の数字がまず必要です。けれども、営業利益の数字がキャッシュフローそのものを表しているわけではないので、そのままでは使えません。まず、法人税や設備投資は必要経費なので、差し引く必要があります。逆に、減価償却費は、今稼働している設備がだんだん古くなって価値を失っていく効果を会計上反映したもので、実際の資金の出入りではありません。営業利益は減価償却費を控除した上で計算されているので、キャッシュフローを考える際は足し戻す必要があります。
運転資本が増加すれば、フリーキャッシュフローは減少
また、運転資本についても考える必要があります。運転資本とは、企業がビジネスを続けていくために必要な“つなぎ資金”のことで、財務諸表の「売上債権」、「棚卸資産」、「仕入債務」という3つの勘定科目を使って次のように表されます。
運転資本=売上債権+棚卸資産-仕入債務
それぞれの勘定科目について順に説明していきましょう。
企業は通常、「(原材料等の)仕入れ→製造・在庫→販売」というサイクルで営業を回しています。そして、商品の販売によって得た収入を次のサイクルの仕入代金に回すことで、営業サイクルが回っていく仕組みです。ただし、企業の取引は規模が大きいので、商品やサービスを売買するとき、その場で現金で支払を済ませるということはめったにありません。契約だけ先に結んで、支払は何か月か遅れた所定の期日に行われることが一般的です。いわば、“ツケ”にしておくわけです。
売上債権とは、商品を販売することで得た収入のうち、まだ入金されていない分です。つまり、売上代金の“ツケ”がどれだけあるかを表しています。自分たちが買う(仕入れる)側でも、同じように“ツケ”で契約を結びます。つまり、仕入先と購入契約を先に結んで、代金は後から支払うようにします。もちろん、いくらがツケになっているかなんて、いちいち覚えていられません。そこで、自分たちが仕入先に支払わなければならない“ツケ”の総額を、仕入債務という勘定科目に計上します。
また、「製造・在庫」のプロセスにあるもの、つまり、まだ売れておらず在庫となっている商品や、倉庫に保管されている原材料などは、棚卸資産という勘定科目に入ります。これらは、近いうちに商品として売られてお金に変わるはずのものです。
運転資本の式を見てみましょう。「売上債権+棚卸資産」は、売上の“ツケ”(売上債権)と、もうすぐお金に変わるもの(棚卸資産)の合計ですね。つまり、近いうちに入金されるはずだけど、まだ手元にないお金を表しています。営業サイクルはずっと続いているので、今月支払わなければならない仕入代金も当然あります。それらは、売上による収入から支払われるべきものですが、「売上債権+棚卸資産」の分はまだ手元に入ってきていないので、今月の支払には使えません。そのため、別にお金を用意しておく必要があります。
逆に、仕入債務は、近いうちに支払わなければならないけど、今月はまだ支払わなくてよい金額です。つまり、仕入債務の分は、今月用意すべきお金からは引いて考えることができます。
まとめると、営業サイクルを回すためには、「売上債権+棚卸資産-仕入債務」に相当する金額の“つなぎ資金”を、営業サイクルの外から(つまり現預金などから)持ってくる必要があります。それが、運転資本です。
売上債権、棚卸資産、仕入債務の金額は時期によって変わってくるので、運転資本の額も時期によって変わります。運転資本の額が増えた場合、増加分は手元にあるお金(現預金)から充当する必要があります。つまり、その分、自由に使えるお金であるフリーキャッシュフローが減ってしまうことになります。
逆に運転資本の額が減った場合は、余った分の資金は自由に使えるということなので、フリーキャッシュフローに加えられます。運転資本が増加すればフリーキャッシュフローはその分減少する、運転資本が減少すればフリーキャッシュフローはその分増加するということです。そのため、フリーキャッシュフローからは「運転資本の増加額」が引かれているのです。
少しややこしかったですが、このようにして計算されるフリーキャッシュフローが、企業が生み出す将来キャッシュフローということになります。