企業の「公正価値」を求める具体的な手順②

前回に引き続き、企業の「公正価値」を求める具体的な手順を見ていきます。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書、『投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 プライシング・ポートフォリオ・リスク管理』(CCCメディアハウス)から一部を抜粋し、株や債券、事業や不動産などの「本来の価値」を推定するプライシング理論について解説します。

債権者と株主の求める「期待収益率」は異なる

前回の続きです。

 

次に、ステップ2(期待収益率)を考えます。企業が投資家から求められる期待収益率を考えるときは、2種類の投資家がいることを頭に入れなければなりません。1つは株主、もう1つは債権者です。企業が資金調達をするときは、負債と株式を組み合わせて行います。

 

債権者と株主は、企業に対してそれぞれ異なる期待収益率を要求します。なぜならば、負債と株式では、投資家が抱えるリスクが異なるからです。すでに学んだように、株式は、将来の予想配当金額によって価格が決まってきます。そのため、企業業績や新商品の売れ行きなどのニュースによって価格が大きく変動していきます。企業の業績が予想を超えて拡大を続けた場合は、株価の上昇という形で恩恵を受けることができます。

 

一方、企業が破綻してしまえば株式は紙くずになりますが、自分が投資した金額以上に損をするということはありません。つまり、損失は限定されている一方で、上は青天井なわけです。そのため、株主は一般に、企業が積極的にリスクを取って事業拡大を目指す経営、いわば“攻めの経営”を行うことを望みます。

 

一方、債権者(融資の出し手や債券の購入者)の側は、株式のようなアップサイドはありません。貸した金額以上のお金を返してもらえるということはあり得ないので、たとえ企業の業績が予想を超えて拡大しても、それで債権者の儲けが増えるということはないからです。一方、企業が経営に失敗して倒産してしまえば、貸したお金が返ってこなくなり、大きな損失となります。そのため、債権者は、企業が無茶をせずに堅実な経営を行い、貸したお金をきちんと返してくれることを望みます。

 

まとめると、債権者と株主は、共に企業への資金提供者ではありますが、その本質は全く異なるということです。そのため、企業に対して要求する収益率も、異なった水準になります。

「株主資本コスト」と「負債コスト」の違いとは?

企業評価においては、株主が要求する期待収益率のことを「株主資本コスト」、債権者が要求する期待収益率のことを「負債コスト」と呼びます。資金調達する側の企業にとっては、株主が要求する期待収益率は、株式発行によって資金調達する際のコストと考えることができます。同様に、債権者が要求する期待収益率は、借入や債券発行によって資金調達する際のコストと考えることができます。そのため、このようなネーミングになっているわけです。

 

株主資本コストは、要は株の投資家が期待する収益率ですので、すでに説明したようにCAPM(資本資産価格モデル)を使って計算することができます(本連載の第8回~11回参照)。負債コストは、今後借り入れを行う場合の借入金利に相当しますが、実務上は、過去の借入金利で代用することが多いです。

外資系生命保険会社の運用担当 

1982年福岡生まれ。外資系生命保険会社の運用部門に勤務。京都大学理学部・東京大学大学院理学系研究科卒(素粒子物理学専攻)。
大学院時代は世界最大の素粒子実験プロジェクトの研究員として活躍。その後メガバンクにクオンツ(金融工学を駆使する専門職)として採用され、信用デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当し、ニューヨークでヘッジファンドのマネージャーを経験。2016年に転職し、現職では10兆円を超える資産の運用に携わる。
欧米文化に親しんだ国際的な金融マンであると同時に、科学や哲学における最先端の動向にも精通している。著書に『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ刊)がある。

著者紹介

連載資産運用の基礎知識――投資対象の価値を見極める「プライシング理論」

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

冨島 佑允

株式会社CCCメディアハウス

投資に使える! 金融がわかる! これから始める人でもファイナンス理論の“あの独特な考え方”が一から理解できるように、資産運用に携わってきた金融のプロが 1.プライシング理論(“本来の価値”をどうやって求めるか?…

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