前回に引き続き、将来キャッシュフローが推定しずらいものの価値を求める手順を紹介します。今回は、「EBITDA」について見ていきます。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書、『投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 プライシング・ポートフォリオ・リスク管理』(CCCメディアハウス)から一部を抜粋し、株や債券、事業や不動産などの「本来の価値」を推定するプライシング理論について解説します。

企業が稼ぐことができるお金の額を表す「EBITDA」

前回の続きです。

 

次にEBITDAですが、これは企業が稼ぐことができるお金の額を表しています。具体的には、法人税、負債の利息および減価償却費を控除する前の利益額、つまり、企業が営業活動によって生み出したキャッシュフローの金額になります。当期利益は、法人税、支払利息、減価償却費を控除した上で計算されているので、これらを足し戻すことでEBITDAを計算できます。

 

EBITDA=当期利益+法人税等+支払利息+減価償却費

 

そして、EVをEBITDAで割ることで、EV/EBITDA比率を計算します。この比率は、企業価値が、営業活動により生み出されるキャッシュフローの何倍で評価されているかを表しています。M&Aを検討している人は、買収対象企業と類似企業のEV/EBITDA比率を比較して、買収対象企業が相対的に割高なのか、割安なのかを判断するわけです。

 

このように、マルチプル法は、他の類似の投資対象との相対的な比較によって割高・割安を判断します。DCF法を用いて公正価値を求めることが難しいので、相対比較で対応するということです。

 

マルチプル法は単純でわかりやすいのがメリットですが、表面的な数字だけを見て判断すると、誤った結論に達してしまう可能性があるので、注意が必要です。例えば、PERが相対的に低い銘柄を見つけたとしても、それだけで買いとは言えません。投資家の間でその銘柄の将来の成長性に疑義が生じて株価が下がり、それでPERが低くなっている可能性もあります。

 

あるいは、本業の儲けを示す営業利益が赤字なのに、たまたま本業以外の臨時収入があったために当期純利益が上振れした場合は、PERは下がってしまいます(PERの分母は一株当たり当期純利益です)。その場合、本業で稼げていないということなので、PERが魅力的な数字だからという理由だけで買うのはリスキーと言えます。

マルチプルの推移にも注意が必要

マルチプルの推移にも注意を払わなければなりません。例えば、純利益のぶれが大きい企業については、PERの値も年度ごとに大きくぶれる可能性が高いので、単年の値だけを見て投資判断を行うのは避けた方が無難でしょう。

 

企業評価も同様です。EV/EBITDA倍率の分子であるEVの計算には、株式時価総額が使われています。株価に発行済株式数を掛ければ株式時価総額が求まりますが、株価にどの数字を使うかは、慎重に考えなければなりません。単に直近の値を使ってしまうと、直近の株価がたまたま高かったり、安かったりした場合には、EVの数値が大きく振れてしまいます。

 

そのような問題に対処するには、直近の一定期間の平均株価を用いるという方法がありますが、どれくらいの期間の平均を取るかもよく考えなければなりません。

 

例えば、単純に直近1年間の平均値を使ってしまっていいでしょうか? それで問題ない場合もありますが、仮に半年前に新商品のリリースがあって、その後株価が大きく上昇していたとしましょう。その場合、直近1年間の平均値を使ってしまうと、新商品のリリースという重要な情報が反映されていない時期の株価も計算に含まれてしまうので、株価を実態よりも低めに見積もってしまうことになります。したがって、その見積額をもとにTOB(株式公開買付)を仕掛けても、投資家は誰も応じてくれないでしょう。

 

実態を表さない数字をもとにマルチプルを計算すると、誤った判断に繫がりかねないということです。

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

冨島 佑允

株式会社CCCメディアハウス

投資に使える! 金融がわかる! これから始める人でもファイナンス理論の“あの独特な考え方”が一から理解できるように、資産運用に携わってきた金融のプロが 1.プライシング理論(“本来の価値”をどうやって求めるか?…

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