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将来CFが複雑に変化する場合の「公正価値」を求める手順

今回は、将来CFがが複雑に変化する場合の「公正価値」を求める手順を見ていきます。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書、『投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 プライシング・ポートフォリオ・リスク管理』(CCCメディアハウス)から一部を抜粋し、株や債券、事業や不動産などの「本来の価値」を推定するプライシング理論について解説します。

なぜ「住宅ローン担保証券」の将来CFは複雑なのか?

今までは、将来キャッシュフローが比較的単純なものを扱ってきました。けれども、金融商品の中には、将来キャッシュフローが状況に応じて複雑に変化するものもあります。

 

そのような金融商品の例としては、住宅ローン担保証券(MBS:Mortgage-Backed Securities)が挙げられます。MBSは、住宅ローンの債権(お金を返してもらう権利)を小分けにして売っているものです。住宅ローンには金利がついているので、債務者は最終的に借りた金額よりも多くのお金を債権者に支払い、それが債権者の儲けになります。

 

一方で、ごく一部ではありますが、ローンが支払えずに自己破産する人も出てくるため、債権者はリスクも抱えていることになります。そこで債権者は、自分が保有している債権をMBSと呼ばれるチケットに小分けにし、手数料を上乗せして不特定多数の投資家に販売します。そうすることで、もとの債権者側から見れば、MBSとして売った分の債権は他の投資家に移転され、代わりに売却代金が入ってくるので、リスクがなくなる上に、手数料も儲かるわけです。

 

一方で、MBSを購入した投資家は、住宅ローン債権から得られる利益を自分のモノにできます。

 

MBSの将来キャッシュフローがなぜ複雑かというと、住宅ローン金利の動向に応じて借り換えが起こるからです。金利が低下すると、多くの人が住宅ローンを一括返済して、より低い金利で借り換えを行います。ということは、金利が高いときに組成されたMBSは、その後金利が低くなると、借り換えによって残高がどんどん減っていくことになります。将来キャッシュフローで考えると、本来はもっと後で発生するはずだった償還のキャッシュフローが急に前倒しになるということです。

 

このように、MBSの将来キャッシュフローは、将来の金利の動向に応じて変わっていくので、単純な方法で公正価値を求めることが難しいのです。

コンピューターで公正価値を求める「モンテカルロ法」

そこで登場するのが、モンテカルロ法と呼ばれる技術です。モンテカルロ法は、コンピューター上で様々な経済状態を何通りもシミュレーションして、それぞれの経済シナリオにおけるMBSの公正価値を計算し、それらの平均値をとることで最終的な公正価値を求める方法です。

 

「金利が来年は1%上がって、再来年はさらに0.5%上がったとしたら」、「金利が来年は0.2%下がって、再来年は1.3%上がったとしたら」などと無数の経済シナリオをコンピューターの中で作り出し、それぞれの経済シナリオにおけるMBSの将来キャッシュフローを推計した上でDCF法で公正価値を計算し、最後に各経済シナリオにおける公正価値の平均を取り、その平均値を最終的な公正価値とみなします。

 

モンテカルロ法は、どんなに複雑な将来キャッシュフローを持つ金融商品についても公正価値を求めることができる、非常に強力な方法です。MBSは金利の動向によって将来キャッシュフローが変わるものですが、株価の動向によって将来キャッシュフローが変わるような金融商品もあります。その場合は、株価の今後の推移について様々なシナリオをコンピューターの中で作り出すことになります。

 

モンテカルロ法は便利ではありますが、金利や株価をどのような規則にしたがって動かしていくかなど、かなり複雑な前提を置かなければなりません。また、コンピューター上で発生させる経済シナリオの数が少なすぎたり、実際に起こる可能性のある様々な経済状態を十分にカバーできていない場合は、結果が偏ったものになる可能性もありますので、前提条件と合わせて十分なチェックが必要です。

外資系生命保険会社の運用担当 

1982年福岡生まれ。外資系生命保険会社の運用部門に勤務。京都大学理学部・東京大学大学院理学系研究科卒(素粒子物理学専攻)。
大学院時代は世界最大の素粒子実験プロジェクトの研究員として活躍。その後メガバンクにクオンツ(金融工学を駆使する専門職)として採用され、信用デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当し、ニューヨークでヘッジファンドのマネージャーを経験。2016年に転職し、現職では10兆円を超える資産の運用に携わる。
欧米文化に親しんだ国際的な金融マンであると同時に、科学や哲学における最先端の動向にも精通している。著書に『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ刊)がある。

著者紹介

連載資産運用の基礎知識――投資対象の価値を見極める「プライシング理論」

 

 

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

冨島 佑允

株式会社CCCメディアハウス

投資に使える! 金融がわかる! これから始める人でもファイナンス理論の“あの独特な考え方”が一から理解できるように、資産運用に携わってきた金融のプロが 1.プライシング理論(“本来の価値”をどうやって求めるか…

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