なぜ「住宅ローン担保証券」の将来CFは複雑なのか?
今までは、将来キャッシュフローが比較的単純なものを扱ってきました。けれども、金融商品の中には、将来キャッシュフローが状況に応じて複雑に変化するものもあります。
そのような金融商品の例としては、住宅ローン担保証券(MBS:Mortgage-Backed Securities)が挙げられます。MBSは、住宅ローンの債権(お金を返してもらう権利)を小分けにして売っているものです。住宅ローンには金利がついているので、債務者は最終的に借りた金額よりも多くのお金を債権者に支払い、それが債権者の儲けになります。
一方で、ごく一部ではありますが、ローンが支払えずに自己破産する人も出てくるため、債権者はリスクも抱えていることになります。そこで債権者は、自分が保有している債権をMBSと呼ばれるチケットに小分けにし、手数料を上乗せして不特定多数の投資家に販売します。そうすることで、もとの債権者側から見れば、MBSとして売った分の債権は他の投資家に移転され、代わりに売却代金が入ってくるので、リスクがなくなる上に、手数料も儲かるわけです。
一方で、MBSを購入した投資家は、住宅ローン債権から得られる利益を自分のモノにできます。
MBSの将来キャッシュフローがなぜ複雑かというと、住宅ローン金利の動向に応じて借り換えが起こるからです。金利が低下すると、多くの人が住宅ローンを一括返済して、より低い金利で借り換えを行います。ということは、金利が高いときに組成されたMBSは、その後金利が低くなると、借り換えによって残高がどんどん減っていくことになります。将来キャッシュフローで考えると、本来はもっと後で発生するはずだった償還のキャッシュフローが急に前倒しになるということです。
このように、MBSの将来キャッシュフローは、将来の金利の動向に応じて変わっていくので、単純な方法で公正価値を求めることが難しいのです。
コンピューターで公正価値を求める「モンテカルロ法」
そこで登場するのが、モンテカルロ法と呼ばれる技術です。モンテカルロ法は、コンピューター上で様々な経済状態を何通りもシミュレーションして、それぞれの経済シナリオにおけるMBSの公正価値を計算し、それらの平均値をとることで最終的な公正価値を求める方法です。
「金利が来年は1%上がって、再来年はさらに0.5%上がったとしたら」、「金利が来年は0.2%下がって、再来年は1.3%上がったとしたら」などと無数の経済シナリオをコンピューターの中で作り出し、それぞれの経済シナリオにおけるMBSの将来キャッシュフローを推計した上でDCF法で公正価値を計算し、最後に各経済シナリオにおける公正価値の平均を取り、その平均値を最終的な公正価値とみなします。
モンテカルロ法は、どんなに複雑な将来キャッシュフローを持つ金融商品についても公正価値を求めることができる、非常に強力な方法です。MBSは金利の動向によって将来キャッシュフローが変わるものですが、株価の動向によって将来キャッシュフローが変わるような金融商品もあります。その場合は、株価の今後の推移について様々なシナリオをコンピューターの中で作り出すことになります。
モンテカルロ法は便利ではありますが、金利や株価をどのような規則にしたがって動かしていくかなど、かなり複雑な前提を置かなければなりません。また、コンピューター上で発生させる経済シナリオの数が少なすぎたり、実際に起こる可能性のある様々な経済状態を十分にカバーできていない場合は、結果が偏ったものになる可能性もありますので、前提条件と合わせて十分なチェックが必要です。