前回は、医療従事者が「患者の人生」を知る意味について取り上げました。今回は、医療・介護従事者が「患者の人となり」を知るべき理由を見ていきます。

若くて、経験が少なくて、能力に自信がなくても・・・

一度だけでも家に帰りたいという願いを叶えたあとに亡くなられたがん患者さんは、私が直接診た患者さんの中でもいちばん影響を与えてくれた人だと思います。

 

だけど私には「本音」は言わなかった。家に帰りたいということを打ち明けたのは看護師にです。自分では比較的、患者さんからみて「医者っぽくない」「話しやすい」タイプだと思っていたし、実際そう言われていましたが、それでもその人のことを知ろうとはしていなかった。だから本音を打ち明けてもらえなかったということでしょう。

 

これは、誰でも当てはまる話です。若く経験もまだ少なくて能力に自信もない。だけど、その人の担当になって、その人を知ろうとすることはとても大事だし、それは経験も能力も関係なく「できること」なんです。

 

その人のことを知ろうと努力している。それだけで自信とまではいかなくても、次の一歩を踏み出しやすくなります。

 

男女関係(同性間でもありますが)と一緒かなとも思います。自分が誰かと付き合いたいという想いが高まったら、その人のことを知ろうとするじゃないですか。その気持ちが大事。

事前の情報に頼らず、自分で知ろうとすることを大切に

だけどソーシャルワーカーや看護師のインテークでも、すごく漠然としかその人自身のことを書いていないことがある。たとえば好きな食べ物は「甘いもの」だとか。もし自分が好きな相手のことを知りたいなら、ただ甘いものじゃなく「どんな甘いもの?」と聞くでしょう。チョコレートだとしても、ミルク系のチョコなのか、ビターなほうが好みだとかいろいろあるはず。

 

そこから、その人はこういう好みを持ってる人なんだと、その人の人物像に近づいていく。物事は全部そういうところからつながっていくものだと思います。その人のことを本当に知ろうとする習慣は若いときからつけたほうがいい。私は医者になって5~6年目で先ほどのがん患者さんのおかげで「その人のことを知ろう」と思えたけれど、その気になれば1年目、いや学生のときからでもできることなんです。

 

どうしても流れで仕事をしていると、ほかからもらったプロフィールだけで仕事をするようになってしまいます。私たちのようなリハビリの必要な患者さんを受け入れる病院だと余計に前の病院からの情報を見て、その延長線上でその人を見てしまう。

 

そうではなく、その人を自分が一から知ろうとすることを大事にしてほしい。人を知るなんてハードルが高いと思うかもしれません。でも、基本は何も難しいことじゃない。その人と「お付き合い」をする気持ちでやればいい。1カ月でも3カ月でも、その人と付き合うことには変わりはないのですから。

本連載は、2017年10月31日刊行の書籍『医療・介護に携わる君たちへ』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

医療・介護に携わる君たちへ

医療・介護に携わる君たちへ

斉藤 正身

幻冬舎メディアコンサルティング

悩める医療・介護従事者たちへ、スタッフ900人超を抱える医療・社会福祉法人の理事長が送る「心のモヤモヤ」を吹き飛ばすメッセージ! 日々、頑張っているつもりだけどなぜか満たされない、このままでいいのかと不安になる…

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