前回は、医療・介護従事者に求められる「コミュニケーション」の力について説明しました。今回は、医療・介護現場における「コミュニケーション」の本当の意味について考えます。

コミュニケーション能力の問題は「自分の問題」ではない

専門職の人たちにとって、それぞれの分野の知識や経験からくる能力、スキルは「自分の問題」だというふうにとらえることもできます。ですが、コミュニケーション能力に関しては自分の問題だからと片づけられない。

 

コミュニケーションは自分のことだけでなく、みんなのためのものなんだよということをどれだけの人が理解しているでしょうか。

 

うまく伝えられなかったときなどにコミュニケーションが下手なのでと、自分の問題として言い訳しがちですが、そうではない。目の前にいる患者さん・利用者さんの情報をチームのみんなでどう話し合って治療やケアに活かしていけるかというのは「コミュニケーション」が問われることです。

 

つまり、自分のためのコミュニケーションではなく、チームのメンバーや患者さん・利用者さんのために必要なスキルだということです。あるいは、今の状態を的確に表現してきちんと伝わるようにするプレゼンテーション能力という部分もそうです。

 

そこを意識して努力するだけで、その人は大きく成長できます。もちろん、人によって能力の幅や奥行きは違うもの。報告系は苦手だけど患者さんとの一対一での関係づくりはすごく上手だとか、それはそれでいいんです。自分の何か得意なコミュニケーション能力を持つことが大事なのですから。

 

逆に上の立場のリーダー、上司はそういったスタッフ個々のコミュニケーションの得意な部分をちゃんと探して認めてあげられることがとても重要になってきます。

ミュニケーションなくして「ベストな選択」はできない

コミュニケーションというのはみんながイメージしているものよりも、ずっと深いものです。私も最初は分からなかった。

 

あるとき、同じ高齢者ケアに携わっている先生からこんなことを言われたことがあります。

 

「斉藤先生、先生のところは患者さんを家に帰せるようにしようって頑張ってるね。すごいよ。だけどね、患者さんにとってみんながみんな家に帰れることが幸せなことなのかな。家に帰ってから本人や家族が大変な思いをしてないのかな」

 

そのときは、思わずカチンときました。こっちはそれだけ努力してるんだと。でも、5年、10年経ってその先生が言ってたことも少し分かってきたんです。患者さんは、ただ自分の家に帰るんじゃない。「家族」のもとに帰るのだから、帰ってから病前の人間関係や家族のしがらみなども影響してくるわけです。そこまで本当にその人のことを「分かって」いたかどうか。

 

その人を知るというのは、本人のことだけではなく、周りの家族や家庭環境、生き方、その人の哲学などいろんなものと一緒にあるんですね。それをいつも意識していないと。

 

患者さんはもちろん、チームのスタッフとも表面的なコミュニケーションをしていただけでは、そこまで分からない。入院ということでも、その人が自分たちの病院に入院することが本当にベストなのか? という問いを前提にコミュニケーションがあります。

 

その問いに答えられないまま、ただベッドが空くから入院できますというのでは何も考えてないのと同じです。自分たちの病院に入って、その人のために何がしてあげられるだろうか? ベストじゃなくてもベターであるという判断はできるようにするためにも、その人のことを深く知って、それを伝えられるコミュニケーションはとても大事なのです。

本連載は、2017年10月31日刊行の書籍『医療・介護に携わる君たちへ』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

医療・介護に携わる君たちへ

医療・介護に携わる君たちへ

斉藤 正身

幻冬舎メディアコンサルティング

悩める医療・介護従事者たちへ、スタッフ900人超を抱える医療・社会福祉法人の理事長が送る「心のモヤモヤ」を吹き飛ばすメッセージ! 日々、頑張っているつもりだけどなぜか満たされない、このままでいいのかと不安になる…

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