介護職員の多くが、利用者中心の介護ができないと自覚
高い志を持って介護の仕事に就いたにもかかわらず、圧倒的な人材不足の中で仕事に追われ、利用者を中心に考えた介護が実践できないと悩む介護職員も多くいます。
「利用者がたくさんいるのに、介護職員の手が足りない」というのは、今の介護の現場によくある光景です。
そして、少ない人数でより多くの利用者に対応するために、スピード重視、効率優先にならざるを得ないという事業所が非常に増えています。
利用者を中心に考えた介護を実践できていないことに対しては、実際に働く介護職員たちも自覚し、心を痛めているようです。
大阪府社会福祉協議会の「特別養護老人ホームにおける『介護職員の業務に関する意識調査』報告書」によれば、「食事や入浴」「排泄」「余暇行動」「外出」について「利用者中心介護はどの程度行っているか」という質問をしたところ、ほぼすべての項目で半数以上の介護職員が「不十分」または「やや不十分」だと答えました。
特に「利用者は自分で選んだ時間に食事をとることができる」と「利用者は自分で選んだ時間に入浴ができる」という質問では、8割以上の介護職員が「不十分」または「やや不十分」だという回答でした。
介護の仕事は体力勝負であることはもちろん、利用者への気配りや目配りをしなければならないうえ、専門的な知識や技術も求められます。仕事内容も排泄介助や口腔ケア、服薬やリハビリ支援など多岐にわたり、その一つひとつをこなしていくだけで大変な労力になります。日々、食事の介助や、入浴介助など分刻みのスケジュールに追われ、夜勤もあります。さらに転倒事故など、常に危険と隣りあわせで、気が抜けません。
そのうえで利用者一人ひとりに寄り添った介護を行わなければならないのです。
「理想の介護」と「忙しさ」のはざまで悩む介護職員
少ない人数で限られた時間の中、より多くの利用者に対応するためには、どうしてもスピードや効率を優先せざるを得ない場面も多くあります。介護に携わる人の多くが「できることなら、利用者一人ひとりに対して十分な対応をしたいが、今の状況ではどうすることもできない」というジレンマを抱えているはずです。
しかし、いくら介護職員が足りないからといって、「忙しいのだからしかたがない」とあきらめ、介護の本来の目的であり、大切な理念でもある「利用者のために」という目線を失ってよいはずがありません。
なぜなら、利用者からの信頼を失うことになるのはもちろん、介護職員全体のイメージダウンにつながることになりかねないからです。多くの介護職員は、日々、高齢者の自立を支援するために精いっぱい努力し続けています。しかし、効率だけを重視して、利用者の満足度を優先できない介護にいつしかやりきれなさを覚え、やりがいを失ってしまうことにもつながります。