前回は、人材不足によって「利用者中心介護」ができず、苦悩する現場の声を取り上げました。今回は、本当に利用者のためになる「あるべき介護」について見ていきます。

理想の介護=利用者が「自分らしく生きられる」手助け

介護とは、ただ排泄や食事の介助をすることではありません。

 

なんでも介助してしまうことで、かえって利用者の能力を奪ってしまうこともあります。

 

要介護認定を受けた人の支援をすること、要介護認定を受けた人が不自由なく生活できるように助けること、と答える人が多いかもしれません。

 

しかし、私が考える「介護」とは、利用者のすべての動作を介助することでも、すべてのことを代わりに行うことでもありません。人間は何歳になっても「自分のことは自分のペースで」行いたいものです。加齢によってそれが難しくなってしまったとしても、できることを自分で行うことが、その人らしく生きるということになります。

 

理想の介護とは、利用者が自分でできることを増やし、自分らしく生きることができるように手助けをすることです。つまり、介護職員は利用者が自分自身ではどうしてもできないことを適切に援助し、利用者のQOL(生活の質)を高めることが仕事なのです。

利用者の「できない動作」を見極めた介護が必要

たとえば、トイレが間に合わずに失禁してしまうのを防ぐため、つい“おむつ”をはかせてしまいがちです。しかし私たちは、トイレに行くのに人の手を借りるだけでも、非常に恥ずかしく感じるはずです。ましてやおむつをはくことも、その処理をしてもらうことも、できれば避けたいと思うでしょう。そんな人として自然な気持ちを無視した介護は、利用者本位とはいえないのです。

 

またトイレに連れて行けば自力で排泄ができるにもかかわらずおむつに頼ると、利用者は体を動かすことをしなくなり、全身の筋力が衰え、食欲までも失っていきます。さらに寝返りもしにくくなるため、褥じょく瘡そう(床ずれ)ができやすくなります。このように利用者を寝かせきりにすることで状態を悪くしてしまうことを「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」といいます。効率を重視した介護や、逆に利用者のためにと親切心からの手厚すぎる介護を行うことで、かえって利用者の能力を奪ってしまうのです。

 

トイレに行くという動作を例にとっても、いくつかのプロセスがあります。利用者が自力でトイレに行けないのは、どのプロセスに介助が必要なのかを観察することが重要です。できない動作をフォローするだけで、利用者は自分でトイレに行くことができる場合もあります。

 

部分的に介護職員の助けを借りてでも、自力でトイレをすませることができれば、筋力も衰えず、尿意や便意を感じる感覚機能も衰えません。何より、利用者の自立を促し自信にもつながります。

 

排泄だけでなく食事や着替え、入浴なども同様です。まずは「できる動作」と「できない動作」を正しく見極め、できない動作を介助する。その人の立場や気持ちを尊重して支援をする。この2点を守りながら、「利用者が自分自身でできること」を維持していく姿勢が、廃用症候群を防ぎ、利用者のモチベーションを高めることにつながります。

「できる動作」「できない動作」を細かくチェックすることは手間がかかります。また、排泄も食事も利用者自身で行えばどうしても時間がかかってしまいます。それでも根気よく見守りを続けましょう。 介護職員がすべて介助してしまえばその分時間は短縮できますが、それでは本当の介護とはいえません。

 

少し時間がかかっても本当に必要な介助を見極める時期さえ乗り切ってしまえば、結果的に利用者自身の「できること」が増え、介護職員の負担も軽減されることになります。

 

そしてそれが、利用者とその家族の満足度にもつながるのです。

本連載は、2017年8月26日刊行の書籍『利用者満足度100%を実現する 介護サービス実践マニュアル』から抜粋したものです。

利用者満足度100%を実現する 介護サービス実践マニュアル

利用者満足度100%を実現する 介護サービス実践マニュアル

山田 俊郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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