利用者と介護者が、お互いに理解し合うことが大切
利用者から得られる情報は、本人との会話の中だけにあるとは限りません。利用者はいつも何を好んで食べるのか、普段食事はどんなスピードで食べるか、お風呂はゆっくり入りたいほうか、散歩の時間は決まっているか、施設内のお気に入りの場所はどこか・・・など、日頃の行動パターンから読み取れることも数多くあります。
たとえば、私の法人施設ではある利用者が野球中継のときだけ熱心にテレビの前にいることに気づいた介護職員が、その利用者に野球の話をして親しくなり、関係を深めることができました。
介護職員は常に利用者の生活パターンを観察し、把握すると同時に職員同士で情報の共有をすることが大切です。
また、利用者の家族からの情報も重要です。
「昔はよくお酒を飲んでいた」「伊勢神宮に参拝するのが昔からの夢だった」「相撲が好きでいつも中継を見ていた」など、利用者との思い出を聞き、その中から利用者の趣味や好みを探ります。
貴重な面会の時間には、家族ともコミュニケーションをとって、利用者の人物像を把握するようにしましょう。
介護の大きな目的は、利用者の支援をするだけでなく、「自立を促す」ことです。そのために、利用者の状態や好みに合わせた介護を心がけるのはもちろん、利用者に介護職員のことを理解してもらうことも大切になります。
人と人が触れ合う基本として、ある程度の情報交換は必要です。何から何までさらけ出すことはありませんが、利用者が安心できるように自分のことを知ってもらい、距離感を縮めます。利用者の趣味や出身地、家族構成に合わせて「私も同じ趣味があります」「○○さんの出身地は私の出身地に近いです」などと共通点を話したり、知りたいことを聞くのもいいでしょう。そうすることで、利用者も介護職員を受け入れ、信頼関係を築いていくことができます。
利用者は介護職員より「豊富な人生経験」を持っている
介護する側、される側の垣根を越えて人として触れ合い、心が通い合えば、一人ひとりに合わせた介護ができます。
これまで普通に仕事をし、社会生活を送り、家庭を営んできた人にとって、いくら年齢を重ねて自分でできないことが増えたからといって、まるで幼い子どものように扱われるのは耐え難い屈辱だと感じているに違いありません。介護職員はその気持ちをしっかり理解する必要があります。そのうえで、「利用者は人生の先輩」という感覚で、ちょっとした悩みを聞いてもらったり、料理や編み物などその人の得意なことを教えてもらったりして、利用者の尊厳を保ちつつ、よい関係をつくるとよいでしょう。
利用者は、私たち介護職員よりもはるかに豊富な人生経験を持っています。こうした経験や知識に触れることができるのはとても幸せなことだと考えましょう。
もちろん、必要以上に話をしたくないと考える利用者もいますから、その場合は利用者の気持ちを尊重し、あまりしつこく声をかけず寄り添います。個々の利用者が好むコミュニケーションの傾向を知ったうえで、アプローチすることが大切です。
充実したアクティビティを通じた関係性の構築を
入所介護、通所介護の場合、アクティビティの内容が非常に重要です。多くの施設では、利用者の余暇時間を充実したものにするため、工夫をこらしてさまざまなイベントを開いていますが、充実したアクティビティによって、利用者同士の関係性が深まります。
また介護職員がアクティビティに真剣に参加することで利用者とのコミュニケーションのきっかけにもなります。利用者の中には進んで参加したがらない人や、身体が不自由でできることが限られる人もいますが、そうした人たちも巻き込み、楽しめるような「参加したくなるアクティビティ」を計画することが求められます。