利用者の家に職員が通う「逆デイサービス」
前回の続きです。
■逆デイサービス
「たまには家に帰りたい」という思いは、どの利用者も持っているものです。また、家族からも「家に連れて帰りたい」という希望が出ることがあります。しかし、どんなに帰りたくても身体的な事情や、家族が迎えに来られない、車などの交通手段がないなどの事情で、外出や外泊が困難な利用者は決して少なくありません。
そこで、介護職員が自宅まで送迎し、在宅での介助を行う「逆デイサービス」を実施しました。通常の通所介護では利用者が施設に通ってサービスを受けますが、その逆で、職員が利用者の家に通ってサービスを提供するというわけです。
同行する介護職員は、送迎時の介助をするだけでなく外出中は一緒に過ごすようにし、利用者や家族との絆を深めています。
このサービスは、利用者をより深く理解することにもつながり、家族とのコミュニケーションも円滑になるという大変効果的なものです。
■合同ドライブ
行事の一環として、桜や紅葉見物などを目的とした季節のドライブ行事を実施しています。介護職員の出勤状況を考慮して、定期的に実施できるよう努めていましたが、参加する利用者はほぼ固定となっていました。
なぜなら、業務上時間が確保できる限られた職員しか参加ができなかったため、介助できる利用者の人数に限りがあり、歩行できる利用者、車への乗り降りがある程度可能な利用者しかドライブに参加ができないという状況だったからです。
そこで施設全体の入所者を対象にした合同ドライブをすることにしました。合同にしたことで参加人数が多くなり、リフト車などの大型車の使用がしやすくなり、ADLが低下して車いすを利用している利用者も参加できる行事へと変わりました。
季節のドライブは、どこの施設でも取り組んでいるアクティビティですが、運営方法の少しの工夫で、より多くの利用者が参加できるアクティビティへと変えることができた事例です。
■施設で外食
「たまには家族で外食を楽しみたい」と思う利用者は大勢います。しかし、要介護度が高いほど、家族水入らずで食卓を囲むことは非常に難しいのが現状です。嚥下力が落ちてしまうと、外食では食べられない料理が増えてしまいますし、誰かが食事介助をしなければなりません。そのため、家族で外食を楽しむのはなおのこと困難になります。
そこで、そうした利用者の希望にこたえようと、施設に家族を招き、利用者と食卓を囲んでもらうようにしました。利用者の分は食べやすいように刻み方を工夫して、家族と同じメニューを食べてもらえるようにしました。
このほか、日々の余暇活動を利用して、介護職員と利用者との交換日記をしたり、畑で野菜を育てたり、いも掘りをしたりします。
利用者から「在宅復帰したい」という意欲を引き出す
介護老人保健施設は、自立支援、在宅復帰を目標とした施設です。利用者から在宅復帰したいという意欲を引き出し、前向きに日々のリハビリに取り組んでもらうためにも、施設での生活の中で生きがいを持ってもらうことが大切です。
介護老人保健施設に入所する利用者は、一般的に転倒などによる骨折や疾病により、自宅へ帰れなくなった人が大半です。中には、かつて自立して生活していた人が心身の障がいにより、住みなれた自宅から離れることになってしまったため、自分に自信を失い生きる意欲までも失ってしまうケースもあります。
そこで一人ひとりに寄り添った個別対応をすることで、生きることの喜びや意義を再認識し、毎日の生活に充実感を感じてもらえるようにすることが大切なのです。
その結果、利用者は「麻雀ぐらいはできるようになりたい」「自分で歩けるようになりたい」「自宅へ戻りたい」などの目的を持つようになり、積極的にリハビリに取り組むようになります。それが自立支援の効果につながっています。
また、個別対応を充実させるためには、介護職員の作業効率を見直し、時間を捻出することや、利用者の本当の望みを見つけるためのアプローチが重要になってきます。こうした個別対応の取り組みから、介護職員のサービスの質も自然に向上させることができました。
個別対応をするうえでは、マニュアルに偏らず、職員それぞれのアイデアと利用者に対する思いを大切にしなければなりません。介護の原点に立ち返るいい機会にもなり介護職員の教育にも役立つ取り組みだと思います。
介護老人保健施設は、「介護だけをする施設」でも「リハビリだけをする施設」でもありません。利用者それぞれの気持ちにできるだけ応え、「この施設に来てよかった」と、ひとりでも多くの利用者に思ってもらえる施設づくりを目指しています。