公定価格見直しのたびに引き下げられる薬価・材料費
医療現場では、卸売業者と交渉を重ねて、公定価格(国が定める基準の価格)よりも安く医薬品を購入する「薬価差益」を確保してきました。簡単に言えば、仕入れ値を抑えて、少しでも利潤を生もうとしてきたわけです。病院が厳しい経営状況でもこれまで存続できたのは、実際にはこの薬価差によるところが少なくありません。
病院の経営者からすれば、これを「益」と捉えること自体が間違いであり、10%から15%程度の薬価差は病院の健全経営にとって不可欠です。
ところが近年、薬価・材料費は2年ごとの見直しのたびに引き下げられ、今や多くの病院では「薬価差益」を確保できずにいます。それどころか、在庫分の医薬品の薬価が引き下げられて仕入価格を割り込み、〝薬価差損〞が生じるケースすらあるのです。
そもそも国が薬価改定を実施するのは、市場で実際に取引されている医薬品の価格(市場実勢価格)と公定薬価の差額(薬価差)を解消するためです。
その背景には、「薬価差益」がかつて医薬品の乱用を引き起こす元凶とみなされ、しばしば批判されたことがあります。しかし、この公定薬価が引き下げられるということは、当然、医療機関が差益を確保し難くなることを意味します。
多くの病院は「黒字」を確保できていない
本書の「はじめに」でも紹介した中央社会保険医療協議会(以下、中医協)の「医療経済実態調査」の結果を見てみます。精神科を除く全国816病院の1施設当たり損益は、2014年度は1億1778万円の赤字でした。2013年度では1施設当たり6191万円の赤字だったので、2014年度の診療報酬改定を挟んで赤字額が倍近くに膨らんだことになります。
収益の移り変わりを詳しく見ると、医療や介護サービスによる収益が1.5%増えていますが、費用の増加幅が3.0%とこれを大きく上回りました。増収減益の傾向が鮮明です。
●開設主体別(2013年度→2014年度/1施設当たり)
民間(419病院):約4010万円の黒字→約3799万円の黒字
公立(155病院):約4億2341万円の赤字→約5億8141万円の赤字
国立(32病院):約1億9574万円の黒字→約1948万円の赤字
●規模別(2014年度/1施設当たり)
20〜49床:約2474万円の赤字
50〜99床:約3953万円の赤字
…
500床以上:約5億114万円の赤字
いずれにしろ、多くの病院が黒字を確保できておらず、「病院は儲けている」というイメージが全く実態にそぐわないものであることが分かります。さらに、公立病院の赤字を補塡するため、国民の税金(地方交付税)がつぎ込まれている事実も忘れてはいけません。