前回は、「消費税非課税制度」の問題を探りました。今回は、日本政府による「少子化対策」の有効性について、医療現場から考察します。

一向に成果が見られない政府の「少子化対策」

政府は、今まで少子化対策として保育所の整備、児童手当、子育て支援など、さまざまな政策を実行してきました。しかし、一向に成果が見られていないのが現状です。

 

2005年度の出生率は国の見通しを大きく下回る1.26(前年度は1.29)にまで下がり、人口も減少へと転じています。これでは、本気で少子化対策に取り組んでいるのか疑わしくなります。

 

現在の社会的状況を考えれば、子ども1人を育てるのが精一杯。多くても2人までという女性は多いでしょう。しかしこれが、安心して結婚、出産ができる社会になれば、無理をしなくても3人ぐらいの子を授かることは可能です。

 

また、現代は高学歴社会です。看護学校でもかつては3年制の看護養成校が多く見られましたが、今では4年制の大学、さらには大学院までできています。薬学部も6年制になり、理学療法士も3年制が4年制の大学になってきているのです。

 

そのうちに日本でも米国のように、一般大学を出てから医学部に行き、6年制が8年制になるのではないかと思います。

 

高学歴社会では子どもを生み育てなくなるのは自然の理です。経済が豊かな国よりも貧しい国のほうが出生率は高く、日本もかつてはそうでした。

 

本気で少子化を食い止めるのであれば、やれることはたくさんあります。

 

たとえば、あまり騒がれていませんが、人工妊娠中絶は年間数十万件もあります(厚生労働省の発表では2015年約18万件)。特に25歳未満に多く、20歳未満でも多くあります。きつい言い方をすれば、日本は「中絶大国」です。

 

この問題を解決できれば、少しは少子化の進行を防げます。中絶の理由で多く見られる経済的な問題なども、社会的支援を充実させればある程度防ぐことはできるはずです。

 

あるいは、早婚を奨励するのであれば、20代前半で結婚すれば税金を半分にする、育児中は住民税をなくす、それ以外にも出産費用の無料化、児童手当を数倍にするなど、思い切った経済財政政策を取ることが考えられます(2017年現在、3〜15歳までの子1人に対し、月額にして1万〜1万5000円が国より支払われており、出産一時金は42万円)。

少子化対策への支出は「未来への投資」

一見、思い切った政策にも思えますが、25歳以下で結婚すれば、200万〜300万円ほどを御祝金として出してもすぐに元は取れるのではないかと考えています。子育てはすぐにお金を必要とするからです。

 

市区町村は高年福祉課だけでなく、児童相談や結婚紹介の窓口または担当課を設け、少子化対策のイベントを企画するべきです。街を見渡せば駐車場ばかりが増えており、子どもが安心して遊べる広場が少なくなってきています。地域社会全体で本気になって子どもを増やす取り組みが必要ではないでしょうか。

 

子どもが増えれば購買力が増加し、税収も増えます。少し長い目で見れば決して損はしないはずです。公共整備にお金を使うよりも、少子化対策にお金を使うほうがよほど景気回復につながると考えるのはわたしだけではないはずです。

 

子どもはすぐに成長し、成長すれば自分でもお金を使います。しかし、老人はお金をあまり使いません。医療費に使うぐらいです。元気な活力ある国をつくるには子どもを増やすしかありません。どこかに特区でもつくり、これらの制度を試験的にでも実行してほしいと思います。

 

現状が続けば、われわれ日本人は近い将来、外国人の若者に老後の面倒を見てもらう覚悟をしなければならないでしょう。病院、一般企業も外国人なしには経営ができなくなるはずです。日本人の若年労働力の深刻な不足時代はすぐ目の前に来ていて、一刻の猶予もないのです。

本連載は、2017年5月30日刊行の書籍『病院崩壊』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

病院崩壊

病院崩壊

吉田 静雄

幻冬舎メディアコンサルティング

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