安価な医薬品・医療材料でも、積みあがれば大変な額に
安価な医薬品や医療材料なら1回当たりの負担はたかが知れていますが、こうした負担が積み上がれば大変な額になります。医薬品によっては非常に高額なものもありますし、医療機器も古くなれば新しく購入しなければなりません。病院はそのたびに消費税を負担しています。
さらに深刻なのが病棟の建て替えです。仮に費用の総額が100億円であれば、現在(2017年4月)の税率だと消費税の負担は実に8億円にも上ります。
2015年4月、国立大附属病院の院長らでつくる「国立大学附属病院長会議」は消費税率が引き上げられた2014年度、全国の45病院全体での決算が約83億円(1病院当たり約2億円)の赤字になる見込みだと発表しました。
そのうち消費税増税による影響額(暫定値)は約55億円。これを1病院当たりにすると約1億3000万円です。同会議では「このままでは人件費・設備費などへの投資を確保できず、病院運営に重大な影響を及ぼす」としています。
社会保障制度を支える原資となるはずの消費税が、医療機関の経営を脅かすとは何とも皮肉なことです。
消費税制が「平等原則」「職業遂行の自由」を損なう!?
こうした状況を解消しようと病院側も努力しています。
社会保険医療が消費税の非課税取引扱いにされていることで大きな損失を被っているとして、兵庫県民間病院協会会員の4法人は2010年9月、過去3年間の損失額の一部としてそれぞれ1000万円の損害賠償の支払いを求めて神戸地裁に国を訴えました。わたしが理事長を務める「社会医療法人中央会」(当時は一般医療法人)も原告の4法人の一つです。
この訴訟でわたしたちが強く主張したのは、現在の消費税制が医療機関を不当に取り扱うことで憲法14条1項の「平等原則」に、医療関係者の職業遂行に著しい困難を生じさせることで22条1項の「職業遂行の自由」にそれぞれ違反しているという点です。
裁判を起こした最大の目的は賠償金ではなく、医療機関が背負う不当な負担を解消し、公平な制度にするよう国に改正を求めることでした。しかし神戸地裁は2012年11月、わたしたちの訴えを棄却しました。診療報酬改定が転嫁方法の代替手段として機能し得るため、憲法違反はないという理屈です。
「診療報酬が転嫁方法の代替手段として機能し得る」とは、次のようなことです。
消費税率がそれまでの5%から8%に引き上げられた2014年度の診療報酬改定では、医療行為への対価となる「診療報酬本体」をプラス0.1%引き上げましたが、消費税率引き上げに伴う医療機関の負担増を和らげるため、この0.1%とは別にプラス0.63%分の財源を充てたと国は説明しています。