前回は、「消費税」の負担に苦しむ医療機関の現状を取り上げました。今回は、「消費税非課税制度」の問題を探ります。

大病院では「増税分の負担」を解消できない事態に

こうした対応は、消費税の導入や税率の引き上げの際にこれまでも取られてきました。そのため神戸地裁は、「国は消費税による医療機関の負担軽減には対応済みであり、今後もこのように診療報酬で対応すれば問題ない」という考え方を示したのです。

 

しかし、問題は消費税対応分の財源を診療報酬にどう配分するかです。2014年度の増税時に中医協が決めた対応は、総額約2200億円の財源を、各医療機関の医療費のシェアと、消費税が課税される経費の割合を踏まえて診療所600億円、病院1600億円に配分するというものです。

 

このうち診療所の600億円は、ほぼ全額を「初診料」と「再診料」に振り分けました。初診料は、初めて受診した外来患者に診察行為を提供した際、医療機関が算定する診療報酬です。再診料は初診以外の外来患者に対して、診療所と200床未満の病院が算定し、一般病床が200床以上の病院では再診料の代わりに「外来診療料」を算定します。

 

一方、病院での消費税対応は、①診療所と同じ点数を初・再診料(外来診療料)にまず上乗せし、②残った財源を課税経費率に応じて入院料に配分(平均2%程度の上乗せ)、③最後に残った財源をいくつかの診療報酬に上乗せするというものです。

 

病院がカバーするのは入院患者の治療がメインなので、入院料に対する平均2%程度の上乗せは公平に感じられますが、国はこれまで、大病院の役割を高度な手術の提供などにシフトさせる施策を展開してきました。一方、このときの対応では手術料への補塡が行われていないため、大病院では増税分の負担を解消できているとは言えません。

非課税にもかかわらず、医療費支払いに含まれる消費税

こうした対応の骨格を固めた2014年1月8日の会合で、中医協の分科会の委員からは、「どうやったって、完璧な公平感というのはあり得ない。多少の割り切りは必要だと思っている」という指摘がありました。要は、診療報酬に財源を上乗せして消費税の負担を解消させる方法には限界がある、ということです。

 

わたしたちが起こした訴訟の判決で、神戸地裁は「厚生労働大臣は医療法人等が負担する仕入税額相当額の適正な転嫁という点に配慮した診療報酬改定をすべき義務を負うものと解するのが相当」と国に宿題を突き付けました。診療報酬で対応するというのなら、その中で医療機関の負担をなくすためにベストを尽くせ、といったところでしょうか。

 

しかしこの判決はその場しのぎにしか聞こえません。医療費非課税制度は「非課税」と言いながら、国民は医療費支払いに組み込まれた消費税を支払っています。これでは非課税とは言えず国民を欺いているも同じです。

 

こうした負担の差を公平にするには社会保険医療費を課税制度にし、税率は患者負担「0(ゼロ)」にするしかありません。わたしは現在(2017年5月時点)も国会政治の場で解決していただけるように運動をしています。

本連載は、2017年5月30日刊行の書籍『病院崩壊』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

病院崩壊

病院崩壊

吉田 静雄

幻冬舎メディアコンサルティング

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