債権者に「支払の減額・先延ばし」をお願いしろと…
東芝と銀行団の交渉を見ていると、
交渉というよりはむしろ、
東芝は銀行管理の下に陥っている、といった様子です。
では、会社が銀行管理になると、
どのようなことが起こるのでしょうか?
その地獄を見た経営者の実話をもとに、書かせていただきます。
銀行を通じて派遣された、経営支援アドバイザーは、
無慈悲に淡々と指示を出します。
“債権者の方々には、会社の状況を伝えて、
支払の減額先延ばしをお願いしてください。”
経営者は凍りつきました。
経営状況が悪化している状況はもう、
うわさレベルでそれなりに知れ渡っています。
そこへ足を運ぶのです。
罵声を浴びる場面が、頭の中を駆け巡ったそうです。
気が重いなか、経営支援アドバイザーが淡々とたたみかけます。
“おたくら、これまで贅沢三昧してきたんだから、
しかたがないでしょ。
銀行への返済がリスケで減額先延ばしなんだから、
債権者にも協力をお願いするのは、当然ですよ。”
アドバイザーと言っても、
銀行を通じて派遣されている、元銀行員です。
結局、彼らが最優先する任務は、
銀行が貸したカネを、全額回収すること、なのです。
そのためにできることは、すべてさせるのです。
考えてみれば、当然のことです。
融資全額回収のため、
経営者の気が重くなろうと、精神的ダメージを受けようと、
何の関心も、慈悲もないのです。
金貸しに、忖度(そんたく)はないのです。
債権者が経営者に浴びせた「罵声」
経営者は、債権者の元へ足を運び、お願いして回りました。
債権者からの、感情的な非難の嵐が待ってました。
“お前らの都合で、なに勝手なこと言ってんだよ!”
“経営が危険なら、全額すぐに払ってくれ!
お前んとこがつぶれたら、ウチもそのカネがパーじゃないか!”
“あんたらの親戚みんな、いい車に乗ってるじゃないか!
すぐに売ってカネ作って、早く払ってくれ!”
いい車など、すでに売ってありませんでした。
しかし、そんなこと言っても、何の言い訳にもなりません。
罵声を浴びようがなんだろうが、
地べたに頭をこすりつける気持ちで、
お願いしてまわるしか、なかったのです。
そしてある日、債権者が複数集まる場へ、
支払の減額先延ばしのお願いにいったときのことです。
若き経営者は、またも数々の罵声を浴び、頭を下げて耐えていました。
そのとき、ひとりの債権者が言いました。
“まあこうなったのも、お前のオヤジの世代のツケや。
なあみんな。彼もかわいそうじゃないか。
自分の責任でもないのに、こうやって頭を下げてるんだ。
彼をそこまでののしる必要ないじゃないか。”
地獄に仏とは、このことです。
経営者は、涙が止まらなかったそうです。
理不尽な苦しみを受け入れ、それに耐える若き経営者の姿に、
理解の手を差しのべる人物は、いつか現れるのです。
経営者は、苦痛の日々を送りながらも、
債権者の理解を少しずつ得てゆきました。
しかし、債権者から受けた数々の罵声は、
今も耳から離れないそうです。
一方、リスケジュールを実行中でも、
振込など、実務面での銀行取引は継続しています。
そこにも、銀行管理の状況が進むにつれ、
変化が表れてきたのです。
(続)