今回は、人事評価のためなら「おどし」も辞さない銀行の実態について見ていきます。※本連載では、現場での実務経験豊富な経営コンサルタントである著者が、銀行交渉の成功事例、融資を受けるために知っておきたい銀行の内部事情などを紹介します。

「支店長からえげつないことを言われました」

前回の続きです。

 

銀行交渉は、借りることばかりではありません。
返すための交渉も、あるのです。
が、借りるよりも返す交渉のほうが、
数倍大きなエネルギーが必要、という事が多いのです。

 

ある会社が、
融資条件の悪いA銀行へ、一気に返済する準備を整えていました。
しかし、
A銀行からの先制攻撃を受け、その実力行使はできなくなりました。
A銀行は、
“短期借入金5千万円はすぐに返してください。
 長期借入金の5千万円は、返さないでください!”
と、こちらが仕掛ける前に、要求してきたのです。
その短期融資は、新規事業へ向けて、
支店長の独断で先行融資したものの、その事業が頓挫していたのです。
で、支店長は、独断融資による汚点を帳消しにすべく、
回収をあせっていたのです。

 

“来週また打ち合わせするんですが、どう対応しましょう?”
後継者が聞いてきました。
“じゃあ、まずは支店長が嫌がることを言ってみましょう。”
“えっ?どう言うんですか?”
“長期は全部返すけど、短期は半分残してください、
 と言ってやりましょう。”
“それは・・・、怒るでしょうね。でも、うちは全部返せますよ。”
“いいんですよ。
 短期は半分残す、と言ったときの、支店長の反応を見たいんですよ。
 それに、交渉なんだから、じらさないと。
 じらしたうえで、担保がついた長期も返済OKなら、
 短期は全部返します、と、言えばいいんですよ。”
“わかりました。”
長期借入5千万円は、3千万円と2千万円に分かれていました。
そのうち3千万円の長期借入には、
後継者の父の自宅が担保になっていたのです。
なので、この3千万円の長期は、なんとしても返済したかったのです。

 

それに、その支店長が短期借入だけを返せ、という真意は何か。
それも知りたかったのです。
こちらの予測どおり、
独断先行融資の汚点を消すために言っているのなら、
さらにえげつないことを言ってくるはずです。
そうしなければ、自らの人事に大きく影響するからです。
彼らは、人事のためなら、おどしも辞さないのです。

 

で、その交渉のあと、後継者から連絡がきました。
“いやもう、支店長からえげつないことを言われました。”
“どう言われたの?”
“「銀行から借りてて、一番こわいことは何か、知ってますか?」
 て、言われました。
 で、とっさに、おどしですか? て、言っちゃいました。”

財務局へ申し出るときの証拠として、交渉内容を録音

まさに、おどしです。
その支店長は、
「短期を全部返さないなら、期限が来ても、次は貸さない。
 そうなったら、困るのはおたくらと違いますか?」
ということを、「一番こわいこと」と、遠回しに言ってきたのです。
その意図をとっさに理解した後継者は、
“おどしですか?”と、言ったわけです。
映画「仁義なき戦い」のラストで、菅原文太が敵方の組長に銃口を向け、
すごみながら、「弾はまだ、入っちょるんでぇ。」
とおどしてその場を去っていったのと、変わりないのです。
おどしてでも、短期借入を返済させたかったのです。
この手のおどし発言は、
自らの人事評価のための行動に、間違いないのです。

 

“おどしですか?って言ったら、支店長はどう言ったの?”
“「いえいえ、そんなつもりはありません。お聞きしただけです。」
 て言うんですよ。しらじらしいでしょ!”

 

で、結局、短期借入を全部返すかわりに、
担保のついた長期3千万円も返済する、
ということで、その場は落ち着いたのです。
こちらの事前打ち合わせ通りの案で、進んだのです。
総額約1億円のうち、8千万円は返済を取り付けたのです。

 

後継者に聞きました。
“録音した?”
“OKです。スマホで録音しました。”
この交渉は録音するよう、指示していたのです。
これで、財務局へ申し出るときの証拠は、つかんだのです。
まだ、長期借入の一部が残ったままですが、
いったん交渉は終結しました。

 

しかし我々は、残りの長期借入も返してしまうべく、
交渉を延長戦へと、水面下で仕掛けていったのです。


(続く)

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