「あの支店長のおどしは許せません!」
前回の続きです。
銀行交渉は、借りることばかりではありません。
返すための交渉も、あるのです。
が、借りるよりも返す交渉のほうが、
数倍大きなエネルギーが必要、という事が多いのです。
ある会社が、
融資条件の悪いA銀行へ、一気に返済する準備を整えていました。
借入総額は約1億円でした。
しかし、銀行からの先手交渉と陽動作戦にムカっときた後継者が、
こちらの手の内を明かしてしまいました。
その結果、長期借入残高を2千万円残す、とういうことで、
A銀行との交渉を一旦は終えました。
しかし、本当は全額返済したいのです。
後継者は、支店長から受けた、おどしまがいの言葉に、
納得いかない様子でした。
“とりあえず2千万円残すことでOKしましたが、
あの支店長のおどしは許せません!”
“じゃあ、しばらく安心させて、
もう、何も言わずに振り込んでください。”
“ですよね!私もそうしたいと思ってました!”
“あの支店長は今、独断で融資した短期借入金を回収できたことで、
自分の身を守れた、と安心してますよ。”
“そうですね。それに、
2千万円残しましたが、どう考えても、
あの支店長の言うとおりにする義理は、何もないんですよ。”
自己資本比率が30%を超えているのに、
金利は高い、担保・個人保証はとられる、
おまけに保証協会まで入らされる。
後継者は、自社の条件と他社事例の乖離を知るほどに、
銀行にいいようにされていたことを、痛感したのです。
支店長も担当も、間もなく異動に…
で、1ケ月を経過した後、
借入残金を一気に口座に振り込みました。
当然、支店長から電話が入りました。
“これは、どういうことですか?”
“まとまった資金が入ったので、借入残高を精算してください。”
“長期はそのまま継続するはずでしたよね?”
“資金繰りの状況が変わりましたから。”
“それなら先に、相談していただかないと・・・。”
“相談したら、返せないじゃないですか!”
というやりとりがあり、A銀行への全額返済を終えました。
後継者は当初、次のような心配をしていました。
“何も言わずに返済したら、その後、
まったく貸してくれないんじゃないですか?”
私はこう言いました。
“あんな銀行から、借りなくてもいいじゃないですか?
それに、銀行には異動があります。
人が変われば、そんなことは関係なく、
借りてください!って、すぐに来ますよ。”
ドラマ「半沢直樹」にあったとおり、
銀行員にとって、人事がすべてです。
それは今も変わりません、
自らの人事のためなら、
過去のことなどおかまいなし、なのです。
案の定、A銀行の支店長も担当も、間もなく異動になりました。
その会社には、今は別の担当が営業にきています。
“いろいろあったようですが、今後ともよろしくお願いいたします。”
後継者は言いました。
“おっしゃるとおりでした。あんなことのあとなのに、挨拶にきましたよ!”
“でしょう。こちらも根には持たず、
条件がよければまた、取り引きすればいいんですよ。”
“おかげさまで、
ちょっとは銀行交渉がわかったような気がします。”
と、その後継者は、笑顔を見せてくれました。
(終)