事前伺いなどせずに「繰上げ返済分を振り込む」
前回の続きです。
銀行交渉は、借りることばかりではありません。
返すための交渉も、あるのです。
が、借りるよりも返す交渉のほうが、
数倍大きなエネルギーが必要、という事が多いのです。
ある会社が、
第二地銀であるA銀行からの借り換えを決意しました。
普通地銀であるB銀行の協力体制が整い、
A銀行への繰上げ返済時の違約金設定がないことも、
確認できました。
次は、どのようにして借り換えを進めてゆくか、です。
“もう、A銀行に借り換えのことをお話ししていいでしょうか?”
後継者が聞いてきたので、次のように答えました。
“いや、それよりも、B銀行から資金調達できたら、
日を決めて、何も聞かずにA銀行に振り込んでしまいましょう。”
“えっ、それで、大丈夫なんですか?”
“大丈夫です。
だって、A銀行に「返していいですか?」と聞いたら、
「返されたら困ります。」と言うにきまってますよ。”
“それはそうですね。”
“だから、先に振り込んでしまってから、
「振り込んだので、それで返済手続きをお願いします」
と言えば、いいんですよ。”
“なるほど。”
これは、ある銀行の支店長に聞いた話しです。
その支店長も、B銀行のように、借り換えに協力してくれたのです。
そのとき、
“何も聞かずに、振り込んでしまえばいいんですよ。
振り込まれてしまえば、もうどうすることもできませんから。”
と、その支店長は、借り換え時の秘策を教えてくれたのです。
で実際、
そのように実行し、抵抗の余地を与えることもなく、
借り換えに成功した、ということがあったのです。
だから、先方に事前伺いなどすることなく、
繰上げ返済分を、振り込んでしまったほうが、よいのです。
いよいよ始まった、銀行との直接的な「駆け引き」
“わかりました。どう進めたら、いいでしょうか?”
後継者の言葉に、こう答えました。
“まずは、B銀行からの入金日を確認して、
A銀行に振り込む日を決めましょう。”
ということで、振込日は、クリスマス休日に入る直前、
となりました。
後継者が嬉しそうに言いました。
“これはいいクリスマスプレゼントですねぇ・・・。”
他にも準備が必要でしたので、次のようにお願いしました。
“まず、A銀行への振込は、
朝いちばんで、口座に入金されるよう、
手配をしておいてください。”
“わかりました。”
“次に、振込日の2日前に、A銀行へ電話を入れて、
その2日後、振込日の10時ころで、訪問のアポをとってください。
ただし、その電話の際には、繰上げ返済のことは、
まだ何も言わないでください。”
“そこで言えば、絶対に抵抗されますよね。”
“そのとおりです。”
“アポを取る際の要件は、どう言えばよいでしょうか?”
“「ちょっとご挨拶に伺わせていただきます」
で、十分ですよ。”
“了解しました。A銀行には、そのように申し入れます。”
と、順調に事が進んでゆきました。
そして、
だんだんと日が近づいてきたとき、後継者から電話が入りました。
“明日、A銀行に電話を入れようとしてたんですが、
先にA銀行から電話がかかってきました!”
“えっ、それで、どう言ってるの?”
“「ちょっとご挨拶に伺わせていただきます」
て言うんですよ!”
まさに、こちらが準備していたセリフをそのまんま、
先手を取られたのです。
“で、いつ来るの?”
“もう、このあとすぐに来ます!”
“う~ん、こちらの動きを知っているとは思えないですが、
何らかの伺いをたててくるかもしれませんねぇ。
わかりました。まずは、先方の出方を伺いましょう。”
この逆奇襲作戦は、意外でした。
しかし、A銀行は、A銀行なりに、
クリスマスプレゼントを、準備していたのです。
いよいよ、A銀行との直接駆け引きが、始まったのです。
(続く)