大きなエネルギーを使う「返す交渉」
前回の続きです。
銀行交渉は、借りることばかりではありません。
返すための交渉も、あるのです。
が、借りるよりも返す交渉のほうが、
数倍大きなエネルギーが必要、という事が多いのです。
ある会社が、
第二地銀であるA銀行からの借り換えを決意しました。
長年のつきあいというだけで、借り続けてきたものの、
条件が良くなかったからです。
で、先方のA銀行にその意向を伝える前に、
こちらの体制を整えるべく、協力銀行を探しました。
結果、一年以上、営業に出向いてきていた、
地方銀行のB銀行が、協力してくれることになったのです。
とはいうものの、B銀行の条件が悪ければ、
話しになりません。
それでは借り換えるメリットが、ないからです。
後継者が交渉した結果、B銀行では、良い条件を確保できました。
個人保証・担保なし、金利はタイボ+スプレッド、
繰上げ返済あり、繰上げ時の違約金なし、です。
そもそも、この会社は自己資本比率が40%超です。
営業利益も、過去5年、5%超を維持していました。
不良債権化する可能性は低く、返済能力も十分に見込めます。
B銀行にすれば、好条件を出してでも、融資をしたい会社なのです。
違約金は罰金ではなく「金利の精算」!?
そこで、改めてA銀行のことが気になりました。
“そういえば、
A銀行への繰上げ返済時の違約金の扱いは、どうなってます?”
後継者にたずねました。
“いやあ、どうだったか・・・。”
“融資を受けたときの、約定書はありますか?”
“あります。”
“じゃあ、その内容を細かく見てください。
たいがい裏面に、小さい文字で書いていますから。”
“わかりました。”
“そこに期限前返済時の条件記載があれば、
借り換えでの繰上げ返済をA銀行に申し入れた際、
必ずこう言ってきます。
「違約金がかかりますよ!」と。”
“そうなんですか。”
“でも、それはいわば、おどし文句ですよ。
違約金というけど、罰金でもなんでもなく、
繰上げ返済分にかかるはずの、金利の精算なんですよ。
それに、実際には担当が銀行内でその手続きをしておらず、
ごねたら免除された、というケースもありますから。”
“えっ、じゃあ何のための違約金ですか?”
“借り換えをさせないため、ですよ。”
繰上げ返済時の違約金とは、
その時点での借入残高にかかる、残りの金利を、
一気に精算して支払う、という仕組みです。
それを、違約金がかかる、という言い方をして、
「借り換えたら損ですよ」と思わせるのです。
しかし、この違約金、約定書に記載されていても、
実行されたりされなかったりするのです。
で、不思議に感じて、元頭取の方にお尋ねしたところ、
“ああ、それは多くの担当が面倒くさがって、
違約金の社内手続きをしていないからですよ。”
ということが、わかったのです。
早速、A銀行の約定書を、後継者に確認してもらいました。
“どうでした?違約金の記載、ありましたか?”
“ありませんでした。念のため、確認してもらっていいですか?”
確かに、繰上げ返済時の違約金条項は、ありませんでした。
B銀行の協力体制が整い、
A銀行には違約金条項がないこともわかりました。
後継者に言いました。
“さあ、ここからですよ。A銀行に倍返しするのは。”
“わかりました。次はどうすればいいでしょうか?”
後継者も、大いにその気になってきました。
いよいよ、A銀行への融資を一気に返し、
B銀行に切り替える、具体的な作戦に動き始めたのです。
(続く)