「義理人情」で継続していた銀行との付き合い
銀行交渉は、借りることばかりではありません。
返すための交渉も、あるのです。
借りたお金を返すのに交渉をする、
というのも、へんな話しです。
が、借りるよりも返す交渉のほうが、
数倍大きなエネルギーが必要、という事が多いのです。
年商5億円未満の、ある中小企業での出来事です。
その会社では、その地域を中心に活動する地方銀行から、
ながらく資金調達をしていました。
仮に、A銀行とします。
“どうしてA銀行と長くつきあっているんですか?
金利も低くはないし、個人保証も取られているじゃないですか?”
と尋ねました。
“いやぁ、今となっては特に理由はないんですが、
先代が事業を始めたころ、苦しいときに貸してくれたそうです。”
答えたのは、その先代の後継者です。
“しかしそれって、何年前くらいの話しですか?”
“う~ん、まあ、30数年前、ですかね・・・。”
“当時便宜を図ってくれた銀行の方は、今もいますか?”
“いや、もう誰も知らないと思います。”
このパターン、けっこう多いです。
で、銀行の担当も心得ています。
“古くからおつきあいいただいており、誠にありがとうございます。”
などとあいさつしてきます。
実は当時のことなど誰も知らないのです。
が、つきあいが長いということには、それなりの理由がある、
ということを、銀行側はわかっているのです。
こうあいさつされると、中小企業の経営者は弱いです。
かつて恩義を受けたことを、思い出します。
(まあ実際には、そう思っているだけなのですが・・・。)
経営者には、義理人情を大事にしたがる方が多く、
その銀行を変える、という決断が、なかなかできないのです。
この会社の先代も、同様のパターンで、
A銀行とズルズル取引が続いていたのです。
「地方銀行ランキング」の順位を見て、愕然
しかし、取引条件は良くありませんでした。
“代替わりもしていることだし、A銀行はもう変えなさいよ。”
“そのほうがいいでしょうか・・・。
A銀行って、そんなに良くないですかねぇ・・・。”
と、後継者も弱腰です。
“じゃあ一度、A銀行が地方銀行のランキングで何位くらいか、
調べてみてください。”と言いました。
ビジネス誌や、インターネットサイトで、
地方銀行ランキングは、定期的に発表されているのです。
数日後、その後継者から、
妙にあせったような声で、電話がありました。
“いやもう、愕然としました!A銀行が最下位なんですよ!”
“えっ、どこで最下位なんですか?”
“全国ですよ!全国の地方銀行で、最下位ですよ!”
“良くないとは思っていたけど、最下位!ですか。”
私も正直、驚いたのです。
ランクが低いことはわかっていましたが、まさか最下位とは。
そうとわかれば進めやすいです。
“だから言ったじゃないですか!
最下位の銀行だから、条件も悪いんですよ!”
そうです。
経営状況が良くない銀行ほど、金利は高くしようとし、
担保・個人保証も取りたがります。
何かと融通も利きません。そういうものです。
“わかりました。A銀行を変える方向で、動きます。
他の銀行に交渉して、A銀行の借入金は返してしまいます。”
ランキングを知り、ようやく、後継者は決断できたのです。
ようやく、幕が上がったのです。
しかし、この時はまだ、
借りたお金を早期に返すことがどれだけ大変なことか、
この後継者は理解できていなかったのです。
(続く)