前回に引き続き、ゴムノイナキ事件について見ていきます。テーマも引き続き、労働裁判に勝つために「会社がすべきことは何か?」です。※本連載は、堀下社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の堀下和紀氏、穴井りゅうじ社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の穴井隆二氏、ブレイス法律事務所所長で弁護士の渡邊直貴氏、神戸三田法律事務所所長で弁護士の兵頭尚氏の共著、『労務管理は負け裁判に学べ!』(労働新聞社)より一部を抜粋し、会社側が負けた労働判例をもとに労務管理のポイントを見ていきます。

自己申告された労働時間の定期的な実態調査

前回の続きです。

 

4.自己申告制の場合には、3つの基準を守れ!!

 

原則的な方法によらず、自己申告制を採用する場合には、次の3つの基準を守る必要があります。

 

1つ目は、「自己申告制を導入する前に、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うための説明」を行ってください。説明会の記録を取っておくとよいです。

 

2つ目は、「自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施」してください。ゴムノイナキ事件では、「残業許可願を提出せずに残業している従業員の存在を把握しながら、これを放置していたことがうかがわれる」とされました。直接的に残業を命令する「明示の指示」ではなく、暗黙に残業を命令する「黙示の指示」により「使用者の指揮命令下にある」と認定されます。

 

実態調査といっても難しくありません。上司が月に何回か遅い時間まで残って自分の目で見てみればいいわけです。実際に自分の目で見て、実際に作業をしていれば、残業許可書を提出するように指示し、ゲームで遊んでいるようであれば、退社するように指示すればよいのです。

 

3つ目は、「労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定しないこと」です。また、「時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害していないか確認し、改善すること」です。

 

例えば、「当社は、月間30 時間しか残業を認めない」としていること等です。このこと自体は違法ではありませんが、実態として30 時間を超える残業がある場合には違法となり、未払い残業代の支払いを行う必要が出てきます。

 

また、「月間30時間以内の残業を死守しよう!」といった社内通達であっても、「30時間以上はサービス残業とせよ!」という趣旨が実態としてあった場合には、黙示的な指示があったとされる場合があります。「定額残業30時間」として、実際にそれ以上の残業があった場合であっても残業代を支払わない場合も違法です。

「無許可の残業」を撲滅させる施策を

5.無許可残業を撲滅させよ!!

 

残業とは、使用者の命令によって行うものです。労働者は残業時間といえども使用者の指揮命令下にあります。労働時間とは使用者の指揮命令下にある時間だからです。勝手に残業させることが間違った考え方なのです。労働者の自主性という甘美な言葉が日本の低い労働生産性の元凶です。自己申告制を取る場合であっても、自己申告制をとらない場合であっても、残業は許可を取って行わせることを目指すべきです。そのうえで、無許可の残業を撲滅させてください。

 

ノー残業デー、文書による残業禁止命令、所定労働時間になったら帰社を促すアナウンスや音楽を流す、消灯、施錠といった施策はいろいろ考えられます。なんらかのアクションを起こすことが必要です。

 

これは、必ず、労働生産性の向上に寄与します。万が一、残業を抑制して仕事が終わらないのであれば、人員を新規に採用してください。そもそもの要員計画が間違っているのです。

 

6.終業時間後に残っている社員の実態把握をせよ!!

 

無許可残業が行われている場合は、何をしているか調査してください。管理者が監視する、監視カメラを設置する、業務日報を記載させる、サーバー等によりパソコンの使用状況を確認する、他の従業員の証言を聞くといった把握方法が考えられます。

 

職場に残って、業務とは関係のない私的なことをしている場合は、帰宅を促すよう指導をしてください。

労務管理は負け裁判に学べ!

労務管理は負け裁判に学べ!

堀下 和紀,穴井 隆二,渡邉 直貴,兵頭 尚

労働新聞社

なぜ負けたのか? どうすれば勝てたのか? 「負けに不思議の負けなし」をコンセプトに、企業が負けた22の裁判例を弁護士が事実関係等を詳細に分析、社労士が敗因をフォローするための労務管理のポイントを分かりやすく解説…

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