今回は、労務判例から「残業時間の証拠を示すもの」について見ていきます。※本連載は、堀下社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の堀下和紀氏、穴井りゅうじ社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の穴井隆二氏、ブレイス法律事務所所長で弁護士の渡邊直貴氏、神戸三田法律事務所所長で弁護士の兵頭尚氏の共著、『労務管理は負け裁判に学べ!』(労働新聞社)より一部を抜粋し、会社側が負けた労働判例をもとに労務管理のポイントを見ていきます。

パソコンのログデータを出退勤時刻の参考に

【判例分析表】


●事件名

ピーエムコンサルタント(契約社員年俸制)事件(大阪地判平17.10.6 労判907・5)

 

証拠

勤務時間整理簿


証拠の評価

勤務時間整理簿は、原告の勤務先と被告との間での契約に関する資料となるものであり、正確に作成する必要があったこと、原告の上司もその記載内容を確認していたこと、被告は本件整理簿中の個別・具体的な勤務時間について争っていないことに照らすと、原告の勤務時間の基礎資料とすることができる

 

●事件名

PE&HR事件(東京地判平18.11.10 労判931・65)

 

証拠Ⅰ

パソコンのログデータ


証拠Ⅰの評価

パソコンのログデータによる各月の日々のデータを観察するに、土日祝日を除いては所定始業時間の前後にパソコンが立ち上げられており、これは原告が出勤してきたであろう時間にほぼ対応して立ち上げられていると思われ、デスクワークをする人間が、通常、パソコンの立ち上げと立ち下げをするのは出勤と退勤の直後と直前であることを経験的に推認できる

 

証拠Ⅱ

原告の手帳(被告が時間管理をしないことに疑問を抱くなどして自己の手帳に日々の勤務時間を記したもの)


証拠Ⅱの評価

①原告が被告在職時に操作していたパソコンのログデータに照らすと、原告の手帳に記載した始業終業時間が必ずしも正確性を担保されたものとはいえない

②原告の手帳にある数字はあくまで原告の主観的な認識によるものでこれを裏付ける客観的な証拠がない以上、全面的にこれによることはできず、当事者間の公平にも反する

③パソコンのログデータを利用しつつ足りないところを原告の手帳における資料で補完する

手帳やシフト表は正確性が乏しく、証拠になりづらい

●事件名

セントラル・パーク事件(岡山地判平19.3.27 労判941・23)

 

証拠Ⅰ

原告の手帳


証拠Ⅰの評価

本件手帳の記載全体を見れば、本件手帳自体は当時使用されていたものと認められるし、出勤および退勤の時刻の記載もその全てが事実と異なると断ずべきものとはいえないが、そのうちどの部分の記載が正確でどの部分の記載が不正確なものかを的確に判別することはできず、結局のところ、本件手帳に基づき、原告の労働時間を認定することはできない

 

証拠Ⅱ

原告の専務宛書面


証拠Ⅱの評価

専務宛書面は、シフト表記載の始業時刻が10時であれば出勤時刻を8時30分に、同じくシフト表記載の始業時刻が7時であれば出勤時刻を6時として記載している部分が多いことに照らしても、その作成された平成16年8月に、シフト表に基づき、比較的定型的な変更を加えて作成されたものと認められ、その記載の正確性は乏しいというほかない

 

証拠Ⅲ

シフト表(勤務割表)


証拠Ⅲの評価

シフト表には原告の始業時刻と終業時刻を記載した欄の下欄等に、本来の記載と異なる時刻が記載されていることもあるが、それがどこまで正確なものか、実態を反映したものかを的確に認めるに足る証拠がないから、本来の記載欄に記載された時刻に従って労働時間を認定するほかない

労務管理は負け裁判に学べ!

労務管理は負け裁判に学べ!

堀下 和紀,穴井 隆二,渡邉 直貴,兵頭 尚

労働新聞社

なぜ負けたのか? どうすれば勝てたのか? 「負けに不思議の負けなし」をコンセプトに、企業が負けた22の裁判例を弁護士が事実関係等を詳細に分析、社労士が敗因をフォローするための労務管理のポイントを分かりやすく解説…

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