日本の製造業は成熟期を迎え、国内市場は縮小していますが、そのような環境でも安定成長を続ける企業は存在します。本連載では、資本も人的リソースも決して多くない山間の中小企業、耐熱塗料専門メーカーのオキツモを例に、世界トップシェアを獲得し、順調に業績を伸ばし続ける理由を、耐熱用塗料の開発ストーリーを通して見ていきます。

取引のない会社から舞い込んだ提案がチャンスに

2011年の展示会でクールテックに興味を持ってくれる会社がありました。電子基板を少量多品種でつくっている会社です。2012年の4月、クールテックをテーマにした事業連絡会議の中で、そんな報告があがってきました。

 

「電子基板? そんなもんになんでクールテックを?」

 

電子基板というもの自体が私には初耳だったので、この報告を聞いた当初、どんなビジネスになるのか想像もつきませんでした。というよりもそんなものに塗料が塗れるのか?というのが第一印象だったのです。

 

詳しく聞いてみると、それは2011年3月、東日本大震災が起こった日に都内で開かれていた展示会での、ある出会いが発端だということでした。

 

「あのー、御社の放熱塗料は私の会社の電子基板には使えませんでしょうか?」

 

時は2011年3月11日の昼下がり。世の中の誰もが、未曾有の震災が東北一帯を襲うなどとは予想もしなかったこの日、私の会社のブースを訪ねて、そう切り出した営業がいました。

 

いまから振り返れば、私の会社の未来を左右する出会いともいえる瞬間。差し出された名刺には「山下マテリアル」とあります。もちろん一度も取引のない、東京・品川に本社がある電子基板メーカーでした。

 

先方の営業は、一緒に電子基板用の塗料を開発しませんかといってきました。この時は展示会に参加していた東京営業所の岩森正三が対応し、その情報は当時名古屋営業所長を務めていた岩本にあがりました。岩本は名古屋に赴任する前から、クールテックに関して熱心に営業活動を続けていたからです。

 

岩本が当時を振り返ります。

 

「当時電子基板というものについて、私の会社の人間には誰一人知識がありませんでした。そこでこの話を聞いてから資料を取り寄せて、とにかく勉強しました。それまでクールテックは手詰まりで、どうにも展開の仕方が見つからなかった。期待したLEDも駄目だった。ならばこれが最後のチャンスと思って、賭けてみようと思ったのです」

会社が扱う塗料と全く違う「電子基板用」のインキ

岩本たちが調べていくと、私の会社が扱っている塗料と、レジストと呼ばれる電子基板用のインキは全く違うものだとわかったそうです。

 

――はたしてこんなものがうちにつくれるのか?

 

岩本たちは頭を抱えながらも、調査を続けました。

 

「こんな畑違いのものをいきなり提案しても、技術部からは煙たがられるだけです。密かに研究は続けていましたが、同時に企画を提出するタイミングも計っていた。なんとかいけるかな? と思い始めた頃、チャンスがあったのです」

 

そのチャンスとは、この頃私が始めた新しい話し合いの場でした。

本連載は、2016年10月14日刊行の書籍『世界トップシェアを勝ち取った田舎の小さな工場の奇跡』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

山中 重治

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の製造業は成熟期を迎え、国内市場は縮小しています。大手メーカーは海外に市場を求め、海外での現地生産を加速していますが、海外に拠点を持たない国内の中小企業は、生き残りをかけた熾烈な競争を余儀なくされています。…

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