前回は、小さな会社が行った経営改革を紹介しました。今回は、役職・部署を越えたコミュニケーションが生む効果について見ていきます。

垣根を越えた話し合いが、大ヒット商品につながる

2000年代前半、私が営業本部長を務めていた頃、営業開発部長だった豊永とよく新商品のアイデアを出し合っていました。場所は決まって建物の隅っこにある喫煙所です。

 

アイデアが浮かんだらどちらかが話をもちかけ、煙草の煙の中で議論を交わしていました。出てくるものはどれも最初は現実的な発想のものでしたが、話が盛り上がるといつのまにかコスト無視、いまの会社の技術では到底実現不可能なアイデアに飛躍してしまうのが常でした。二人は夢中になっているので、最初の発想とかけ離れてしまっても気づきません。よくいえば、それだけ夢中だったのです。

 

私たちはそうして固めた新商品のアイデアを原料や加工に詳しい常務の耳野のところに持ち込みます。

 

「この加工はどうするつもり?」「コストが全くあわないよ」と耳野に容赦なく一蹴され、再度企画は練り直しになります。これもいつものことでした。それでも私たちが企画を持ち込み続けたのは、耳野がただアイデアを突っ返すだけではなかったからです。

 

どんなに現実離れの発想でも「この部分を別の原料にすれば方法はあるかもしれない」「こういうデータがあるから参考にしてはどうだ」とアドバイスをしてくれるのです。だから私たちは「何度でも考えてみよう」という気になれたものです。

 

私と豊永は歳が近かったのですが、当時から部署も役職も違います。それでもそんなことはお互いに気にしたことはありません。

 

私の会社では、いまでも当時の私と豊永のようなやりとりが社内のいたるところで行われています。そうした役職や部署の垣根を越えた話し合いが自由にできる風土があるので、思わぬところから大ヒット商品のヒントが飛び出すこともあるのです。電子基板のレジストインキの開発への挑戦も、そんな何気ないきっかけを無駄にしなかったことから始まったのでした。

成果は期待していなかった「試作市場2011」への出展

ことの始まりは、2011年3月11日、東京都の大田区産業プラザで行われた「試作市場2011」でした。

 

この展示会へは、三重県産業支援センターの主導で出展したもので、いってみれば地元とのお付き合い。展示会の成果はあまり期待していませんでした。

 

私の会社のようなBtoBのビジネスを展開している企業は、展示会で商品をPRし、来場者からの問い合わせにより受注に結びつけています。しかし、規模も小さく、町工場のメッカではありましたが中小規模の企業が多い大田区で開催されるということで、それほど重視している展示会ではなかったというのが正直なところです。

 

出展商品も工作機械などに使用されるグリースに替わる「潤滑塗料」が中心で、この頃最も力を入れていた「放熱塗料=クールテック」は出展してはいたものの位置づけはそれほど高くありませんでした。ここでそれを出展しても、理解いただけるお客様は少ないのではないかと思っていたのです。

本連載は、2016年10月14日刊行の書籍『世界トップシェアを勝ち取った田舎の小さな工場の奇跡』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

山中 重治

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の製造業は成熟期を迎え、国内市場は縮小しています。大手メーカーは海外に市場を求め、海外での現地生産を加速していますが、海外に拠点を持たない国内の中小企業は、生き残りをかけた熾烈な競争を余儀なくされています。…

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