前回は、中小企業におけるパートナーシップの重要性について取り上げました。今回は、協業による成功を予感させた、ある企業との出会いと交流を見ていきます。

これまでの事業成功の陰にあった「素晴らしい出会い」

「わかった。それじゃ私がまず先方の山下マテリアルを訪問してこよう」

 

2012年の春、クールテックの応用による電子基板用レジストインキ開発という新しい課題が東京営業所の岩森から橋本部長へ、そして名古屋営業所の岩本と技術部の川合の手を経て、私のところにあがってきた時、私は早い段階で山下マテリアルを訪問することに決めていました。

 

これまでの経験から、新しい事業領域や業界に進出を目指す時、その成否をわける条件が「誰と組むのか」、つまり協業だと学んでいたからです。

 

私の会社は耐熱塗料のほか、フッ素樹脂塗料と環境商品という3本の柱で成長してきました。創業早くから取り組んでいた耐熱塗料以外のフッ素樹脂や環境商品といった新規事業の二つはまさに協業によって成長してきた新規事業です。

 

耐熱塗料に続いて、事業の大きな柱として育っていったこの二つの事業の成功の陰には、素晴らしい出会いがあったのです。

いい素材を商品にするための「道筋」を敷く

一方、期待の素材として生まれたクールテックが思うように実用化できなかったという原因の一つには、パートナーと協業するという発想が欠けていた点があげられます。いくら高度な機能を持った素材でも、それをどんな商品に、どのような条件で使用するか、最終商品となって使われるための道筋が敷かれていないと、大きなビジネスには発展しないのです。

 

そこで、レジストインキの開発にあたっては、何よりもまず先方の本社や工場を訪ねて、その経営姿勢や社風を肌で感じることにしました。

 

会議から1カ月も経たないある日、私は東京・品川にある山下マテリアルを訪ねました。案の定、「来てみてよかった――」、そう実感する訪問になりました。

 

――やはり聞いていたイメージと現実は全く違うな。

 

それが私の最初の感想でした。ホームページ等で事前に得ていた情報では、山下マテリアルはもっと大きな会社かと思っていたのですが、意外にこぢんまりしていて会社の規模感が似ています。沿革を伺うと、先代が築いた親会社が商社で、兄が本社を継ぎ、山下マテリアルは弟の息子、山下博樹氏が社長を務めています。つまり、奇しくも私と同じ3代目です。本社は大井町、工場は相模原にあり、工場を視察すると、大きなラインで大量生産するのではなく、試作品を手づくりのような形で生産されています。

 

――この生産のやり方はうちと似ているな。

 

それが私の第一印象でした。

 

私の会社でも、新しい商品は取引先からの注文を受けて最初は試作品からつくります。既製の商品に手を加えてカスタマイズしていくこともあれば、既存の素材を配合して新しい商品を生み出すこともある。

 

山下マテリアルでは、取引先のオーダーにより試作品を受注し製作。やがてそれが市場を席巻するようになれば、大量生産のラインに乗せるというビジネスモデルでした。

 

――手間のかかる仕事だけれど、そこに技術力さえあれば、試作の段階からそれが商品になる。中小企業でも大手と対等に戦っていけるんだ。

 

業界こそ異なるものの、同じように健闘している企業の存在を知り、なぜか嬉しくなる思いだったのです。

本連載は、2016年10月14日刊行の書籍『世界トップシェアを勝ち取った田舎の小さな工場の奇跡』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

山中 重治

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の製造業は成熟期を迎え、国内市場は縮小しています。大手メーカーは海外に市場を求め、海外での現地生産を加速していますが、海外に拠点を持たない国内の中小企業は、生き残りをかけた熾烈な競争を余儀なくされています。…

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