前回は、役職・部署を越えたコミュニケーションが会社にもたらす好影響について説明しました。今回は、展示会への出店が、未来の協力企業と出会うきっかけとなった事例を見ていきましょう。

当初は見込み客のうちの1社と考えていたが・・・

前回の続きです。

 

ところが、この場で一つの大きな出会いがありました。ある意味で、会社の将来を占うような――。

 

この展示会には、東京・品川に本社がある山下マテリアルも出展していて、そこのH氏とA氏が私の会社のブースを訪ねてきたのです。山下マテリアルは1936年創業のプリント配線板の設計・製造・実装・組立までの一貫生産体制を敷く会社でした。

 

当時、東京営業所に所属していた営業、岩森が対応しましたが、山下マテリアルの二人を、多くの見込み客のうちの1社としか考えていませんでした。

 

しかし、会話してみると山下マテリアルは「熱サゲリューション」というプロジェクトをすでに行っており、「放熱」については知識も豊富で、同じように放熱に着目した私の会社のクールテックに強い関心を持っていました。

「放熱できるレジストインキ」開発のきっかけに

ブースで岩森は、挨拶を交わし、放熱についての私の会社の取り組みを語りました。

 

山下マテリアルは電子基板メーカーであり、いままで私の会社とは接点のない領域の企業でした。岩森も、電子基板に対する知識は全く持っていなかったはずです。それでも山下マテリアルの「放熱」に対する並々ならぬ知識と興味に着目し、岩森は展示会終了後、品川にある本社を訪問し、改めてクールテックを始めとした商品や技術を紹介しました。

 

その時、山下マテリアルの担当者との会話の中で、放熱できるレジストインキがあれば面白いねという話になったのです。

 

岩森はありったけの資料を持って会社に戻ると、さっそく研究を始めました。こんなに面白そうなネタは絶対に逃したくない、その思いで電子基板の知識をゼロから勉強し始めたのです。営業の岩森は技術的な知識を持ち合わせていません。そこで技術開発部の門をたたき、どうすればこのネタを料理することができるのか、相談をもちかけました。

 

先述した通り私も当初「やめた方がいいんちゃうか?」といったのですが、開発の方でも最初の反応は渋かったようです。やはり、これまで携わったことがない領域なだけに実現するのは難しいと感じたのでしょう。それでも、どんなに無謀に思えるアイデアも話だけはしっかりと聞く環境が出来上がっていたお陰で、少しずつ話は前進していったのです。

 

ここで登場した「レジストインキ」とは、電子基板の配線を保護するものです。そもそも電子基板とは、絶縁体の板に部品間を接続するための配線回路を形成したもので、パソコンやスマートフォンなどあらゆる電子機器に使用されています。

 

[図表1]プリント基板構造・原理

 

ソルダーレジストインキは電子基板の表面を覆って、回路パターンを保護する絶縁膜となるインキです。ソルダーとは「はんだ」、レジストは「耐える」という意味で、部品の実装時にはんだが不必要な部分へ付着するのを防止すると同時に、ほこりや熱や湿気などから回路パターンを保護し、絶縁性を維持する役割があります。

 

もし、ソルダーレジストインキが何らかの原因で絶縁性を失うと、いわゆる〝ショート〞が起こって、電子機器が動かなくなったり誤作動となる原因となります。

 

電子基板の開発により、電子機器はより軽く小型で高性能になりました。しかし、電子基板の最大の弱点は熱です。素材や設計構造によっては、発生した熱がこもり、高熱になってやけどなどの事故を起こしたり、発火して大きな事故につながることもあります。また、事故にまで発展しなくても、熱により電子回路の効率が落ちたり、故障につながることはいうまでもありません。

 

山下マテリアルでは、レジストインキに放熱性を持たせることで、熱問題を解決しようと考えていたのです。電子基板の熱を放熱できればコンピュータやスマートフォン等、電子基板を使った機器の性能が飛躍的に向上します。そして、そんな電子基板が実用化すればその市場規模は全世界に広がり、莫大なものになるはずです。

 

[図表2]レジストインキ光反射・耐熱性データ

 

とはいえ、この時の面談では、本格的な営業というよりも挨拶を含めた雑談程度のものだったようです。岩森はこの日の山下マテリアルでの雑談を、社内で情報共有のために使われている「情報共有ワークスペース」にアップしました。

 

それが当時の機能性塗料事業部の技術部長であった橋本の目に留まったのです。放熱レジストインキの開発に大きな可能性を感じた橋本は、再度山下マテリアルを訪問し、電子基板のレジストインキについて技術的な詳細内容を確認、当時、名古屋営業所所長を務めていた岩本に依頼し、技術部の川合の研究へと進んでいったのです。

本連載は、2016年10月14日刊行の書籍『世界トップシェアを勝ち取った田舎の小さな工場の奇跡』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

山中 重治

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の製造業は成熟期を迎え、国内市場は縮小しています。大手メーカーは海外に市場を求め、海外での現地生産を加速していますが、海外に拠点を持たない国内の中小企業は、生き残りをかけた熾烈な競争を余儀なくされています。…

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