前回は、異業種からのある問い合わせによって、塗料メーカーが転機を迎えた事例を紹介しました。今回は、ある若手社員の提案が新しいビジネスのきっかけとなったエピソードを見ていきます。

「得意領域で勝負したらいい」と考えていたが・・・

その頃、私の会社の組織は3事業部制となっていました。環境商品事業部。コーティング事業部。機能性塗料事業部。主力商品を3つの部門にわけて、それぞれ分社化することを目指して事業部体制にしたのです。

 

[図表]2012年当時の組織図

 

ところがこうやってみると、各事業部間の情報の流れが悪いことに気づきました。お互いに隣の事業部が何をやっているのかわからずに、テーマが重複したり本来取り組むべきテーマを見逃したりしている。

 

これではいけないということに気づいて、私は3事業部の情報を共有する場として、営業所のトップを集めて、その時点での取り組んでいるテーマを出し合う事業連絡会議をつくりました。この時の会議は、岩本が所長を務める名古屋営業所で行ったはずです。

 

この会議では、若手の営業マンを集めて、企画書のつくり方を勉強してもらう意味も含めて、新企画の提案をさせていました。その会議の中で、岩本が発言しました。

 

「まだ調査中なんですけど、去年の東京での展示会で私の会社のクールテックに興味を示したメーカーがありました。電子基板の試作品をつくっている山下マテリアルさんです」

 

この時岩本はこう切り出した後、この技術がいかに難しいか、塗料とは違い印刷分野の素材であることなどを語り始めました。

 

「そんなん無理やろ。やめた方がええんちゃうか?」

 

私がそう発言したのはこの時でした。

 

この時期には、岩本たち営業部員が全員血眼になって新領域の商品を探しているのは痛いほどわかっていました。だからといって無理をさせてもいけない。餅は餅屋という言葉もあるから、我々の得意領域で勝負したらいいという思いが私にはあったのです。

技術部に根回しをしたうえで、プレゼンを行った社員

ところがこの時、岩本は引き下がらなかった。私が駄目出ししても、いかに電子基板という市場に魅力があるかを語り続けるのです。

 

岩本は東大阪の出身で、私の会社には途中入社です。前職は自動車の営業。どちらかといえば陽気な〝チャラ男〞で、軽いタイプの人間と私には映っていました。当初はISOを管理する部署にいましたが、この明るい性格をいかせるようにと営業部に移した経緯もあります。

 

その岩本が、この技術に対して執拗に食い下がってくるのです。

 

後になってわかったことですが、この頃岩本は、すでに技術部にコンタクトをとり、ある研究者にこの技術を研究させていました。そうした根回しをして下地を固めてから私に提案してきたのです。

 

「この技術はやってみると面白いと思います。私にやらせていただけませんか?」

 

技術部に問い合わせてみると、そう発言する若い技術者もいました。

 

――これはやればできるかもしれないな。やってみると意外に面白い結果が出るんじゃないか。

 

名古屋での会議の後、私の中でそんな思いがわいてくるのに、それほどの時間はかかりませんでした。

本連載は、2016年10月14日刊行の書籍『世界トップシェアを勝ち取った田舎の小さな工場の奇跡』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

山中 重治

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の製造業は成熟期を迎え、国内市場は縮小しています。大手メーカーは海外に市場を求め、海外での現地生産を加速していますが、海外に拠点を持たない国内の中小企業は、生き残りをかけた熾烈な競争を余儀なくされています。…

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