今回は、観光を主要産業とする地中海の島国、キプロス、マルタの概況について見ていきます。※本連載は、東洋大学経済学部国際経済学科教授・川野祐司氏の著書、『ヨーロッパ経済とユーロ』(文眞堂)から内容を一部抜粋し、EUの経済にまつわる取り組みからヨーロッパ各国の金融政策デザイン、マイナス金利政策などについて解説します。

石油精製、不動産業なども成長するキプロス

キプロスは最も東にあるEU加盟国である。東西240km、南北100kmの小さな島であり、海岸沿いに主要な町が点在する。鉄道がないため、自動車やバスが移動手段となる。無料通行できる高速道路も整備されており、レンタカーでの移動も容易である。なお、キプロスとマルタは日本と同じ左側通行である。キプロス島の中心部のトロードス地方には標高1951mのオリンポス山があり、冬は降雪もある。キプロスはこの地域のエコツーリズムを推進しており、EUの欧州構造投資基金からも資金援助を受けてトレッキングコースなどの整備を進めている。

 

キプロスはグリーンラインを境に南北に隔てられており、北側はトルコ人が多く住むキプロス・トルコ共和国(北キプロス)、南側はギリシャ系の人々が多く住むキプロス共和国となっている。北キプロスはトルコのみが承認する国家であり、EUには南側のみがキプロス島一体として加盟している。グリーンラインは首都のレフコシア(ニコシア)も分断している。キプロスにはイギリス軍の基地があり、中東などへの出撃にも利用されている。

 

観光業が重要な産業だが、石油精製や不動産業などが成長している。2000年代はロシアから、2010年代には中国からの資金が流入し、不動産を買い漁っている。キプロスにはKEO(ビール)、キプロス銀行(銀行)、ヘレニック銀行(銀行)、ルイス(水上輸送)、ロジコム(物流)、ツォコス(ホテル)などの企業がある。

エネルギーのほぼ100%を石油の輸入に頼るマルタ

マルタは有人のマルタ島、ゴゾ島、コミノ島と無人のコミノット島、フィルフラ島、聖パウロ諸島からなる。地中海の重要な航路上にあるため、古代から戦争の舞台になってきた。第二次大戦でも空戦の舞台となっている。紀元前1800年ころまでは巨大遺跡文明があった。タルシーン神殿、ハジャー・イム神殿、ジュガンティーヤ神殿など多くの遺跡を今も見ることができる。鉄道はなく、移動は自動車かバスになる。キプロスと同様、道路は左側通行になる。

 

マルタ島は南北に貫く1号線は比較的整備されているものの、他の道路は舗装状態が悪かったり適切な標識がなかったりする。ゴゾ島もイムジャールからビクトリアまでは舗装された道があるが、それ以外の場所はコンクリートや石畳、砂利道など道路状況は悪い。EUの結束基金で道路を整備している。

 

ゴゾ島へのアクセスにはフェリーを利用する。ゴゾ島は石灰岩でできており、多くの鍾乳洞がある。カリプソの洞窟(トロイ戦争の後、魔女カリプソがオデュッセウスを幽閉していた)などの神話にまつわる観光地もある。現在は洞窟の内部を見ることはできないが、すぐそばにはゴゾ島で最も人気のあるラムラビーチがある。

 

マルタはエネルギーのほぼ100%を石油の輸入に頼っており、電力網も貧弱なため産業の競争力が弱い※1。乾燥した土地で真水の確保も難しいため農業は適さず、乾燥に強いサボテンが多く植えられている。夏になると路上などでサボテンの実を売る姿を見かける。天然資源もなく、観光業や漁業が主要な産業となっている。太陽光や潮力などの再生可能エネルギーは豊富に存在するが投資が不十分である。

 

※1 European Commission (2016), Country Report Malta 2016, SWD (2016), 86 final.

 

マルタにはヴァレッタ銀行(銀行)、ゴゾライン(フェリー)などの企業がある。

本連載は、2016年11月1日刊行の書籍『ヨーロッパ経済とユーロ』から抜粋したものです。その後の社会情勢等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

ヨーロッパ経済とユーロ

ヨーロッパ経済とユーロ

川野 祐司

文眞堂

インダストリー4.0,イギリスのEU離脱問題,移民・難民問題,租税回避,北欧の住宅バブル,ラウンディング,マイナス金利政策,銀行同盟,欧州2020…ヨーロッパの経済問題を丁寧に解説。

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