そもそも「大地主」とは?
私はこの本のタイトルを「繁栄する大地主 衰退する大地主」としましたが、そもそも大地主とはどのような方を言うのでしょうか。
これについてはもちろん決まりがあるわけではありませんが、ここでは土地の面積がだいたい3,000㎡以上の方をイメージしています。
1,000㎡程度でも都心であればかなりの資産家ですが、この本で取り上げるメインテーマは広大な土地をいかに次の世代に受け継いでいくかということなので、かなり広めの土地所有者を想定しています。
また事業承継ということなので承継人が今はサラリーマンだとしても、いずれ会社を辞めて不動産賃貸業に専念するという前提です。そのためには少なくとも不動産の収入だけで食べていける程度の規模は最低限必要となります。
<この本で取り上げる大地主>
①所有地が全部で3,000㎡以上ある
②通常の宅地だけでなく宅地化した農地を含む
③個人所有だけでなく同族法人が所有している土地も含む
※土地といっても生産緑地として申請した農地とか特定市街化区域以外の農地、山林等に関しては納税猶予制度を利用するか否かといったことだけですから、この面積からは除かれます。要するに土地活用の対象となる土地の面積が3,000 ㎡以上あるかどうかということです。
このように、この本で取り上げる大地主の範囲はかなり限定されていますが、第3章(※書籍参照)以下の事業承継に直接関係のないそれぞれのテーマについては「大地主」でなくても役立つと思いますので参考にしていただければと思います。
相続した不動産を公平に分けるのが今のトレンド!?
不動産というと「遺産分割するのが難しいので争続になりやすいです」とか、「公平に分けるにはどうやったらいいか」といった観点からの説明ばかりで事業承継といった観点から解説したものはほとんど見当たりません。
どうして一般の企業では事業承継ということが重要視され、不動産賃貸業の場合にはほとんど語られないのでしょうか。
もちろん一般企業の場合は一族以外の社員の雇用の問題はあるでしょうが、事業を承継するという観点からは不動産賃貸業も同じではないかと思うからです。
私がなぜ「大地主」に限定したかと言えば、広い土地を所有している大地主の場合には、先祖から受け継いできた大切な資産である土地を減らすことなく次の世代に承継する義務があると考えるからです。
皆様方は「たわけ者」という言葉をご存じでしょうか? これは「田分者(たわけもの)」からきたという説が有力です。
遺産分割において子供の人数で田んぼを分けると、孫の代、ひ孫の代へと受け継がれていくうちに、それぞれの面積が小さくなっていき、少量の収穫しか得られず家系が衰退してしまうという戒めの言葉だというのです。
私が敢えてこうした本を書こうと思ったのも、「公平に分けるのが今のトレンド」とか「相続税で財産が無くなることは仕方ない」といった感じで、財産を減らすことに無頓着すぎるような気がしてならないからです。
もちろん第1章で詳細に解説したとおり不動産を維持することは以前よりも遥かに難しくなっているのも事実です。だからといって先祖から受け継いできた土地を自分の代で安易に減らしていっていいものでしょうか。
私は戦後、GHQにより再び戦勝国であるアメリカに歯向かうことのないよう日本国ならびに日本人を徹底的に弱体化すべく各種の制度破壊がなされている事実を数多くの本から学びました。
財閥解体、農地解放、新憲法、公職追放、借地借家法等々、挙げたらキリがないほどありますが、遺留分という制度もその一つです。
遺留分というのは要するに何らかの理由で財産を渡したくない人がいても法定相続分の半分までは相続人に保障されるという制度です。こんな制度などアメリカにすらありません。これでは家族関係を平気で壊す人間を野放しにするだけです。
不動産経営に向いた人がいなければ売却も一つの方法
戦前の家督相続のように原則として長男が全ての財産を相続するという硬直した制度については必ずしも賛成するものではありませんが、だからといって均等相続を支持するものでもありません。
こうした考え方に立つと、大地主の場合には不動産経営に適した方が大多数の不動産を相続すればいいのではないか、という結論になります。
例えば長男が国家公務員で国のために大きな仕事をしたいと思っているのであれば長男ではなく次男が相続すればいいだろうし、長男が開業医で忙しいのであれば同様に次男が相続すればいいのではないかと思います。
また長男、次男とも不動産経営が好きで不動産を今より増やしていきたいと考えているのであれば2人で相続すればいいのです。どのように分けるかは、その時々の状況に応じて適宜判断すればいいことです。
相続の本を読んでいると、不動産を現預金と同じように生活維持のための資産という前提に立った議論が多いようですが、私がここで主張しているのはあくまで不動産を次の世代に受け継がせる義務を後継者に背負ってもらうということなのです。そのための事業承継であり、だからこそ他の相続人も文句を言わないのです。
先ほども言いましたように不動産経営は今後ますます難しくなります。したがって片手間ではやっていけません。後継者として指定されたら59ページ以降(※書籍参照)に書いているような様々な勉強をする必要があります。
もし相続人に、こうした不動産経営に向いた方がいないのなら、いっそのこと全ての不動産を売却するというのも一つの方法です。
農地にしたって耕作放棄地が増えているようですが、こうしたことは国にとって決して望ましいことではありません。農業法人などに売却してシッカリと経営してもらうべきなのです。
75ページ以降(※書籍参照)で家族信託のことを解説していますが、家族信託とは要するに信託する人が受託者に信託契約通りに仕事を遂行し、シッカリと財産を守っていく義務を背負わせることなのです(もちろん家族信託には様々なものがあり、ここに書いているのはその一例に過ぎませんが・・・)。
したがって、不動産を相続した人が他の人よりも圧倒的に有利であり、他の人はソンをしたということには決してなりません。むしろ受託者は大変な仕事を背負い込んだというのが実態かと思います。
こんなことをいうと事業承継とは暗いことばかりのような気がするかも知れませんが、不動産賃貸業も他の仕事と同じように苦しいこともあれば楽しいこともあります。
例えば、空室が増えて資金繰りが厳しい時は暗い気持ちになりますが、土地活用のプランを考えている時とか入居率アップのための様々な対策が威力を発揮し満室になった時などは達成感があります。