今回は、一般企業と不動産賃貸業の事業承継の違いについて見ていきます。※本連載では、株式会社鹿谷総合研究所の代表取締役で、公認会計士・税理士でもある鹿谷哲也氏の著書『繁栄する大地主 衰退する大地主 節税プランの良し悪しと決断力の有無で大きく分かれます』(新評論)の中から一部を抜粋し、大地主が今後も「繁栄」していくための事業承継の進め方を解説していきます。

バブル崩壊後、150万社もの企業が消滅…

いきなり、「最も大切なことはスムーズな事業承継です!」と言われてもピンとこないと思いますので、最初に一般企業の事業承継についてご紹介しておきます。

 

次の「中小企業数の推移」をご覧下さい。1986年から2014年までの推移が表示されています。

 

中小企業数の推移(個人+法人)

1986年…533万社

1991年…520万社

1999年…484万社

2004年…433万社

2009年…420万社

2014年…381万社

 

これによりますと、バブル当時の1986年には個人、法人合わせて533万社もあった中小企業が2014年現在では381万社まで激減しています。

 

実に150万社余りの企業が消滅したことになります。

 

ことほど左様に中小企業の数が減少しているわけですが、その主な理由は経営そのものが社会環境の変化により大変難しくなっているためです。

 

例えば、魚屋とか八百屋、酒屋、洋服店などの店はスーパーとかコンビニなどのチェーン店に悉くシェアを奪われていますし、電気店なども大型のチェーン店に客を奪われ、為す術もありません。

 

そこで中小企業のオヤジさんは子供から親の事業を承継しないでサラリーマンになると言われても強く反対できないのです。

事業承継で引き継ぐ財産の内容

このように一般企業でも事業承継は困難を極めているのですが、そもそも事業承継で何を承継するのでしょうか?

 

次の「事業承継で引き継ぐ財産の内容」をご覧下さい。

 

[図表2] 事業承継で引き継ぐ財産の内容

 

一般企業と不動産賃貸業のそれぞれについて比較する形でまとめております。以下、順番に解説しておきます。

 

まず最初の「物」ですが、一般企業の場合は法人経営であれば自社株、個人経営では事業用資産ということになります。一方、不動産賃貸業の場合は土地や建物といった不動産が該当します。

 

このうち一般企業でよく問題になっているのが自社株です。というのは会社の業績が良いと自社株の相続税評価額が高くなるのですが、自社株の場合には基本的に第三者に売却できません。にもかかわらず税額は高いので、その納税に四苦八苦するのです。

 

それでは一方の不動産賃貸業の場合はどうでしょうか?確かに場所が良く広大な土地を所有している場合には高額の相続税が課されますが、売却したり物納することで納税できなくはありません。

 

でも、それだと「衰退」の仲間入りということになりますので、自社株の場合と同じく様々な節税手法を駆使してできるだけ税額を抑える必要があるのです。

 

次に「」ですが、いずれも運転資金ということになります。この額が多いと経営が安定するのは一般企業も不動産賃貸業も同じです。

 

特に不動産賃貸業の場合には多額の借金返済がありますので資金繰りに注意して無駄なお金は使わないようにしましょう。

 

家賃などの入ってくるお金は増減しますが、借金返済などの支払いは待ってくれませんのでご注意を!

不動産賃貸業における「知的財産」とは?

そして最後の「知的財産」ですが、一般企業の場合は社長の持つ信用力であったり各種のノウハウ等、「目に見えにくい資産」ということです。

 

それでは「不動産賃貸業の知的財産とは何ぞや?」ということですが、4つほど挙げてみました。

 

最初の「競争力のある差別化物件」というのは必ずしも「目に見えにくい資産」ではないかも知れませんが、快適に過ごすことができるという点では当てはまると思います。

 

次に「立地条件」(駅近、環境、日当り、眺望など)ですが、不動産賃貸業の場合には最も重要な点です。所在地が最寄駅からかなり離れていたり悪臭がプンプンではいくら立派な建物を建てても入居者からソッポを向けられます。

 

したがって立地条件があまり良くない場合には自分で建物を建てるのではなく定期借地で土地を貸すとか、状況によっては売却することも視野に入れるべきです。後ほど述べますが、一般企業だって第三者に会社を売却することはよくあります。

 

それから「管理サービス」というのは設備が故障したりカギを紛失した時にすぐ駆けつけるといったことです。通常は専門の管理会社に業務を依頼するケースが多いと思いますが、そうした体制を充実させることがオーナーの信用につながるわけです。

 

そして最後の「担保力」というのは金融機関から融資を受ける場合に威力を発揮します。物的担保だけでなく、収益力であるとか経営者個人の信用力によって有利な融資条件を引き出すことができます。

 

不動産賃貸業は快適に生活したり仕事をする建物という空間を提供することです。したがって一般企業にいうところの「知的財産」とは若干趣が異なりますが、以上挙げたような点を充足させることが安定経営につながるのです。

 

以上、一般企業と比較する形で事業承継で引き継ぐ財産について解説してきたのですが、実際にこれらを承継するのはいずれも相続人である子供です。

 

一般企業であれば従業員等に任せることもありますが、不動産賃貸業の場合にはほとんどのケースでお子さんが承継します。

 

もし子供がいない場合には親族の方と養子縁組することになりますが、適任者がいない場合には不動産を売却するか公益法人に寄付するしかありません。

本連載は、2017年2月25日刊行の書籍『繁栄する大地主 衰退する大地主 節税プランの良し悪しと決断力の有無で大きく分かれます』から抜粋したものです。その後の法律、税制改正等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

繁栄する大地主 衰退する大地主 節税プランの良し悪しと 決断力の有無で大きく分かれます

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鹿谷 哲也

新評論

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