「物件別損益・収支の将来推移」の一覧を作成
ステップ⑤物件別収支を計算する
以上は相続税関連ですが、収支についても併せて計算すべきです。相続税対策でよく失敗するのは収支計算がいい加減だからです。収支と相続税の両面から対策の良し悪しを判断しなければ失敗する確率がかなりアップします。
「収支あっての節税対策」なのであって相続税だけで判断することは厳に慎まなければなりません。相続税を安くすることができたとしても資金ショートを起こしては元も子もないからです。
なお収支といってもトータルの数値だけでは不十分で物件別に計算する必要があります。損益計算書というのは合算損益・収支を計算したものですから物件別収支を計算するためには諸経費についても一定の基準で物件別に按分する必要があります。
次の「物件別損益・収支一覧」をご覧下さい。これは我々の事務所で通常作成しているものですが、物件別に一覧表示されていますので優劣を比較する上で分かりやすいと思います。
[図表] 物件別損益・収支一覧
ところで、この「物件別損益・収支一覧」は物件毎の収益性を比較する上では有益なのですが、単年度の損益・収支しか分かりません。
物件別に将来の推移がどうなるのか把握するためには、次の「物件別損益・収支の将来推移」のような帳票を作成する必要があります。借入金が残っている場合には返済が終了する前後で数値が大きく変動する状況がよく分かると思います。
[図表] 物件別損益・収支の将来推移
これら以外にも給与所得等、不動産以外の各種所得、各種税金(所得税、住民税、事業税等)なども考慮に入れたキャッシュフロー計算書を各人別に作成することで、より正確に将来の推移を見通すことができます。
計画よりも実際の収支が悪くなる2つの理由
一般の商売ではその時々の経済状況によって業績が大きく変動しますので、それほど長期の分析をしても意味がありません。
ところが不動産賃貸業の場合にはシミュレーションした結果と実績値にそれほど大きな振れが生じないのです。
これは対策後であっても同じです。例えば相続税対策として賃貸マンションを建てる場合、事前にシミュレーションすると思いますが、今までの経験では計画と実績にそれほど大きな乖離は生じませんでした。
こう言うと、「そんなことはない。家賃は下がる一方だし空室だって毎年のように増えてきて資金繰りに追われている。」などと反論される方が必ず現れます。
確かに、現実問題としてそういったことはよくありますが、それには次の2つの原因が考えられます。
<事前に計画したよりも実際の収支がドンドン悪くなる2つの理由>
①事前の計画が甘い
家賃というのは建物が古くなると通常は下がります。これは過去の統計数値を見れば明らかです。また入居率も同様に建物が古くなるほど悪化します。にもかかわらず、こうしたことを無視して能天気にシミュレーションしても現実と一致するわけがありません。つまり計画自体にそもそも間違いがあるのです。
②計画達成への努力不足
一般の企業だって5年程度の長期経営計画書を作成しますが、通常は計画達成に向けて涙ぐましい努力をします。
翻って不動産賃貸業の場合はどうでしょうか。「不動産所得は不労所得」とばかりに安穏とし過ぎて来なかったでしょうか。確かに過去には古き良き時代もありましたが、残念ながらこれからはそういうわけにはいきません。
様々な収入アップ・経費ダウンの方策を繰り返し、実行し続ける必要があります。本屋に行くと、サラリーマン投資家の書かれた良書が所狭しと並べられています。やることはいくらでもあるのです。こうした努力を何もしないで、ただ愚痴を言うだけでは収支は改善しません。
シミュレーションを繰り返した上で実行
以上、解説してきましたように不動産賃貸業の場合には他の事業と比較して長期的には計画と実績にそれほど大きな乖離は生じないのです。
一方で不動産賃貸業の場合には計画の良し悪しで収支はもちろん相続税に至っては雲泥の差となって現れます。
したがって対策を実行する前に様々な状況の変化を想定して何度もシミュレーションを繰り返し、キッチリとした長期経営計画を作成する必要があります。
なお、以上はあくまで長期的な経営計画の話です。何らかの理由で空室が急激に増えたとか相続が発生したといった場合には大胆かつ迅速に最善策を取らなければなりません。
短期、中期、長期の対応策はそれぞれ違っていて当たり前なのです。このことをシッカリとわきまえた上で実行していく必要があります。
ステップ⑥ 滞納状況を把握する
不動産賃貸業をやっておりますと、どうしても家賃等の滞納が発生します。特に貸地の場合には長期に亘って訴訟合戦が繰り返されるケースがよくありますが、もしそうした事実があるのであれば分かりやすくまとめておかれることをお勧めします。
裁判関係の資料はもちろん保存されていると思いますが、資料の整理だけでなく今までの経緯について後継者に詳しく説明できるようにしておきましょう。当事者でないと微妙なニュアンスが分からないからです。
ステップ⑦ 物件を調査する
所有している不動産が自宅から離れている場合でも億劫がらずに物件調査に行きましょう。百聞は一見に如かずです。
物件調査というと物件だけを見に行くイメージがありますが、付近の状況とか最寄駅、商店街、学校、公園、病院等々、生活する上で必要となる様々な施設も同時に見ておくことも大切な役割なのです。
また、せっかく行くのですからデジカメで気に入った写真をジャンジャン撮っておくことをお忘れなく!
不動産会社に仲介を依頼するとしてもネットに載せる写真やアピールポイントはオーナー自身が準備するぐらいの意気込みを見せてほしいものです。