「心意気」でお客様の心をつかむ店主
私の知り合いの、英語が苦手なお寿司屋さんのエピソードを紹介します。私は店主に最初と最後の挨拶、そして気持ちのよい相づちを徹底的に教え込みました。彼も大変熱心に、覚える努力を重ねました。そのおかげで、少しずつ英語を話せるようになりました。
誰しもが経験があると思いますが、英語を少しでも話すと外国人は「この店主は英語が話せる」と思われてしまうようで、初めはいろいろ話しかけられて戸惑うこともあったようです。それでも外国人の英語の中からキーワードを拾い、最低限のコミュニケーションが取れるようになってきました。「あ、フランス出身なんだな」「休暇で、家族を連れて日本に来ているんだな」その程度のことがわかると、それなりの答えが出てくるようになったそうです。ポイントをつかむだけでもずいぶん大きな変化が起きたと店主は言っています。暗記した英語は、英語スイッチを入れると、最後までスルリと出てくるようになり、次の対応も少しずつですが、スムーズにできるようになってきます。
「寿司も握るが心も握る」がこの店主の口癖です。たとえ流暢でなくても心意気でお客様の心をつかむ店主がいること、これも一つの「おもてなし」の形だと考えてもよいでしょう。お客様の多くは、次の来日の時にまたご来店くださるそうです。
また、航空会社で働く海外からのクルーで、日本に来るたびに「WhiteRubberBoots(白いゴム長)のところに行こうよ」と言って連れ立って出かけて行く人たちがいました。
それはいったい何のことだろう。どこのレストランだろう、と私はずっと思っていましたが、ある時それが高級レストランでも、こじゃれたカフェでもなく、白いゴム長を履いて作業している普通の町のラーメン屋さんだと聞いて驚きました。
もちろん、クルーは完璧な英語でのおもてなしや接待を期待しているわけではありません。ですが、とにかく愛想がよく気持ちよく迎えてくれるらしいのです。もちろん、ラーメンが美味しいことは言うまでもありません。ことほどさように、外国人は気に入ったお店があれば、滞在中にはルーティーンのように出かけて行きます。彼らがその店の店長のことを「ケンさん」と呼んで、フライト後ににぎやかに過ごしていたことは記憶に新しいです。
笑顔、表情、視線でコミュニケーション
このように「おもてなし」の気持ちで固定のお客様をつかむことのできる街角の小さなお店もあります。「美味しかったですか?」「ありがとうございます」「また来てくださいね」がお見送りの3本柱です。きっと彼らは意識しなくても自然にそれをやっているのでしょう。
サービス業には、いろいろな業態があります。英語が話せなくても、笑顔、表情、視線でコミュニケーションを取る。このようなおもてなしの方法もあります。先に書いたように長い英語が話せなくても、一生懸命丸暗記した英語だけで対応しても、笑顔や心意気、そして何よりも「味」で勝負。そのようなおもてなしで、お客様に満足いただき、またのご来店を期待できるようなお店もあります。
しかし、おもてなしのプロを目指す皆様には、言葉、表情、しぐさ、視線、あらゆる面で「接客サービスの世界基準」を目指して、いまおもちのスキルに磨きをかけていただきたいと思います。