米国の贈与・相続、申告漏れで9万ドルのペナルティ…IRSが還付したのに司法省が返還を要求した理由【国際税理士が解説】

米国の贈与・相続、申告漏れで9万ドルのペナルティ…IRSが還付したのに司法省が返還を要求した理由【国際税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

米国では、海外から一定額を超える贈与や相続を受けた場合、税金が課されなくても、IRS(米国内国歳入庁)への報告が必要となる。所定の書類を提出しなければ、多額のペナルティを課されることもある。今回、父親からの贈与をめぐって9万ドルのペナルティを課された納税者は、いったんIRSから還付を受けたものの、今度は米国司法省から返還を求められる事態に陥った。なぜ、このような異例の展開となったのか。米国の税務行政の仕組みとともに解説する。

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米国では課税されなくても海外からの贈与・相続に報告義務

米国の確定申告書には、海外金融口座や暗号資産などに関する質問項目が設けられています。これらは必ずしも所得税の課税や納税額に直結するものではありませんが、米国内外の資産や資金の動きを把握するうえで重要な役割を果たしています。

 

その一例が、米国居住者が米国非居住者から多額の贈与や相続を受けた場合に提出する「Form3520」です。

 

米国では、日本と異なり、贈与税や遺産税は原則として財産を渡す側、すなわち贈与者や被相続人に課されます。このため、財産を受け取った側には、贈与や相続そのものについて税金が発生しないケースも多くあります。

 

しかし、だからといって報告義務まで免除されるわけではありません。米国の税務上の居住者などが、外国人から一定額を超える贈与や相続を受けた場合、Form3520による報告が必要になることがあります。

 

この報告義務を怠ると、原則として報告対象額の25%を上限とするペナルティが課される場合があります。受贈者や相続人自身に贈与税・遺産税が課されない場合であっても、報告義務違反によって多額の負担を強いられる可能性があるのです。

父親からの贈与をめぐり9万ドルのペナルティ

フォーブスの報道によると、今回問題となったのは、米国市民権を持つメキシコ系の納税者が、米国市民権を持たずメキシコに居住する父親から金銭的な支援を受けていた事例です。贈与は2010年、2011年、2012年、2015年の複数年にわたって行われました。

 

納税者は米国の確定申告書を作成する際、父親からの贈与について税務を専門とする弁護士に相談していました。しかし、必要なForm3520は提出されませんでした。

 

その後、IRSの税務調査で報告漏れを指摘され、納税者は2010年分について9万ドルのペナルティを課されました。これは贈与額の25%に相当する金額でした。

 

納税者はペナルティをいったん支払ったものの、税務の専門家に相談していたにもかかわらず報告義務を認識できなかったことなどから、その処分に納得できず、IRSに還付を請求しました。しかし、IRSは当初、この請求を認めませんでした。

 

そこで納税者は、改めて還付を求める手続きを行いました。ところが、6ヵ月以上が経過してもIRSから回答がなかったため、還付を受ける正当な理由があるとして、連邦裁判所に訴えを起こすことになったのです。

 

IRSが還付した9万ドル、今度は司法省が返還を要求

Form3520の目的は、単に海外資産や所得の隠蔽を防ぐことにとどまりません。米国外から米国内に流入する資金を把握し、海外からの贈与や相続の実態を確認することも重要な役割です。そのため、受け取った資金に課税されるかどうかとは別に、所定の報告義務が課されています。

 

今回の納税者は税務の専門家に相談していたにもかかわらず、必要なフォームを提出していませんでした。こうした事情を踏まえ、納税者側は、報告漏れには相当な理由があったと主張しました。

 

その後、IRSは還付請求を受け入れ、納税者に9万ドルの小切手を送付しました。納税者にとっては、ようやく問題が解決したかに見えました。

 

ところが、事態は思わぬ方向に進みます。米国司法省は、IRSによる還付には権限上の問題があるとして、納税者に対して9万ドルの返還を求める訴訟を起こしたのです。

税務訴訟で浮かび上がったIRSと司法省の権限問題

なぜ、IRSが自ら還付した金額を、司法省が改めて取り戻そうとするのでしょうか。この問題の背景には、米国における税務行政と訴訟手続きの関係があります。

 

IRSは税務調査や徴税、還付などを担う行政機関ですが、税務上の紛争が訴訟に発展した場合には、司法省が政府側の訴訟対応を担うことがあります。訴訟が係属(継続)している間は、IRSが司法省との調整を経ずに独自の判断で処分を変更することが、権限上の問題を引き起こす場合があります。

 

今回のケースでは、納税者と司法省との間で係争が続いていた2025年、IRSが司法省の許可を得ないまま、納税者に相当な理由があったとしてペナルティ全額を還付し、抵当権も解除したとされています。

 

つまり、納税者に対するペナルティの妥当性だけでなく、政府機関内部で、誰がどの段階で還付や処分の変更を決定できるのかという問題が浮上したのです。

 

このような状況では、納税者にとって、IRSから還付金を受け取ったことが必ずしも紛争の最終的な解決を意味するとは限りません。行政機関による還付が行われても、別の政府機関がその適法性を争い、返還を求める可能性があるからです。

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