「喜んでくれていると思っていたのに…」言葉を失った土曜日
73歳の和夫さん(仮名)は、5年前に妻を亡くし、現在は一人暮らしをしています。
年金は月18万円。住宅ローンを完済した自宅で暮らしており、生活費に大きな不安はありません。
そんな和夫さんの楽しみは、車で20分ほどの場所に住む長男一家を訪ねることでした。
長男夫婦には小学2年生の息子がいます。和夫さんにとって、たった一人の孫です。
「妻が亡くなってから、家に一人でいる時間が長くなりましてね。孫の顔を見ると元気が出るんです」
訪問するのは、主に土曜日の午後。最初は月に1、2回でしたが、次第に毎週のように足を運ぶようになりました。
スーパーで買った果物や菓子を持参し、孫と遊んだり、夕食をごちそうになったり。和夫さんにとっては、心安らぐ時間でした。
長男も「また来てよ」と言ってくれていたため、歓迎されていると信じていたそうです。
ところが、ある土曜日のこと。いつものように息子宅を訪れ、孫と居間で遊んでいると、思いがけない言葉をかけられました。
「おじいちゃんが来ると、ママが困るんだって」
和夫さんは一瞬、何を言われたのか分かりませんでした。
「えっ、どうして?」
聞き返すと、孫は何気ない様子で答えました。
「おじいちゃんが来る日は、お部屋を片づけたり、ごはんをいっぱい作ったりしなきゃいけないって」
さらに、「今日は早く帰ってくれるかなって、ママがパパに聞いてた」と続けたのです。和夫さんは返す言葉を失いました。
その日も、長男の妻は笑顔でお茶を出してくれていました。夕食の準備を始めたところで、和夫さんは「今日はそろそろ帰るよ」と席を立ちました。
「お義父さん、夕飯は食べていかれませんか?」
いつもと変わらない声をかけられましたが、和夫さんは「家に食べるものがあるから」と断りました。
帰り道、孫の言葉が頭から離れません。
「喜んで迎えてくれていると思っていたのに、実際は迷惑だったのかもしれない」
帰宅してからも、和夫さんは落ち着かない気持ちで過ごしました。
