理学療法士等に代わりケアを提供する「フィジカルAI」への期待
こうしたケアには、どうしても「人の手」が必要になります。しかし家族にも医療者にも、時間と体力には限界があります。
30年前、義父が手を痛めながら義母の足をもみ、少しでも負担を減らそうと道具まで工夫していた姿を、今でも覚えています。
現在の在宅医療でも、理学療法士や看護師、介護職などの人的資源には限りがあります。必要なすべての患者さんに、十分な時間をかけてケアを提供できるとは限りません。
そこで私は、AIを搭載した支援ロボットのような「フィジカルAI」の進歩に期待しています。
将来、AIが患者さんの状態や反応を読み取りながら、適切な強さで筋肉をほぐし、関節運動や体位交換、移動などを支援するようになるかもしれません。それによって、家族や医療者の身体的負担を軽減できる可能性があります。
もちろん、人の手で触れることには、単なる物理的刺激以上の意味があります。義母が義父の作った道具では満足できなかったことを思うと、そこには「自分のために手をかけてもらっている」という安心感や温かさもあったのでしょう。
フィジカルAIが人に取って代わるのではなく、人間にしかできない声かけや、まなざし、手を握ることに、家族や医療者がより多くの時間を使えるようにする。そのために、機械に任せられる部分は少しずつ任せていく。
30年前、義父が手の痛みに耐えながら続けていたマッサージを、もし現代の技術が少しでも助けることができたなら、義父にも義母にも、もう少し穏やかな時間があったのかもしれません。
そう考えると、これからの技術の進歩を、私は大いに期待したいと思います。
在宅医療を受けながら人生の最期を迎えた義父
そして義父自身も、つい最近、在宅医療を受けながら人生の最期を迎えました。30年前、義母を私たちの家で一緒に看取った義父も、自宅で102歳の大往生を遂げたのです。
義父は糖尿病、前立腺がんを患い、大腿骨頸部骨折の後の車椅子生活でありながらも、自分の歯で硬いお煎餅をぼりぼり食べ、義兄の叱咤激励で、食後はエアロバイクを20分間漕ぐほど元気な自宅療養を続けていました。ただ、半年ほど前に胆管がんが判明し、胆管にステントを留置。何度か入退院を繰り返しながらも、次第に体力を失っていきました。
訪問診療は私たちのグループのクリニックが担当しました。私としては、30年前に十分にできなかったことを、少しはお返しできたのではないかと、ひそかに感じています。
ただ、義父自身はどのように感じていたのでしょうか。30年前に義母を一緒に看病し、私たちの家で見送った日のことを思い出していたのでしょうか。そのことをゆっくり聞くことができないまま、義父は逝ってしまいました。
亡くなる2日前には、私たちの子ども、つまり義父にとっての孫が、ひ孫を連れて見舞いに行ってくれました。そのとき義父は、なんとも言えない、とても穏やかな笑顔を見せていました。あの笑顔は、人生の最後に見せた、ひときわ鮮やかな輝きだったように思います。
振り返ってみると、義母と義父の2人が、在宅医としての私を育ててくれたのだと思います。そして、もっと言えば、医師としての私、人間としての私を育ててくれたのかもしれません。今は、2人への感謝に堪えません。
野末 睦
医師
医療法人 あい友会 理事長
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