感染症、悪性腫瘍、器質的疾患…在宅医療に多い呼吸器疾患
在宅医療で多く診療する呼吸器疾患は、いくつかのカテゴリーに分けられます。
まず1つ目は、肺炎などの感染症です。これには、誤嚥性肺炎、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺炎、さらに肺炎球菌などが原因となる肺炎も含まれます。このような感染症による呼吸器疾患は、在宅医療で診療する代表的な疾患の1つです。
次に挙げられるのは、肺がんなどの悪性腫瘍による呼吸器疾患です。肺がんによる死亡者数は年々増加しており、在宅医療の現場でも、その対応を求められる機会が非常に多くなっています。
そして、もう1つのカテゴリーとして挙げられるのが、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や特発性肺線維症など、肺の器質的変化によって引き起こされる疾患群です。
このように、在宅医療で診療する呼吸器疾患は、大きく①感染症、②悪性腫瘍、③肺の器質的疾患の3つのカテゴリーに分けることができます。
在宅医療に携わる医師は、少なくともこれらの呼吸器疾患に関する基礎的な知識や治療法、さらに生活の場での注意点について、十分に理解しておくことが必要です。
アップデートが進む、在宅呼吸器疾患対処法
呼吸困難という症状の緩和は容易ではありませんが、まず重要なのは、在宅酸素療法や非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)、ハイフローセラピー(HFNC)などを適切に用い、呼吸状態そのものを改善することです。これが呼吸困難に対する基本的な治療となります。
●在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)
在宅における呼吸器疾患治療の発展を語るうえで、欠かすことのできないものが在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)の普及です。
ご存じのように、1980年代に酸素濃縮器が在宅でも使用できるようになったことで、それまで酸素投与を必要とする患者さんは入院治療が必須でしたが、在宅での療養が可能になったのです。まさに在宅医療の発展における大きな転換点といえると思います。
●ハイフローセラピー/NPPV/人工呼吸器
そして近年は、通常のHOTに加えて、COVID-19の治療の際に病院の集中治療室でも使われたハイフローセラピーが在宅でも使用可能となってきています。酸素療法と人工呼吸器の中間にあるハイフローセラピーですが、効率よく酸素を肺へ送り、呼吸も少し楽にしてくれるうえに、高いフロー(30~40LPM)の量が入るので、加湿もしっかり行うことができ酸素濃度も最大100%まで上げられる、画期的な治療法です。病院では当たり前になりつつあるこの治療が、現在は在宅でも健康保険のなかでできるようになり、保険適用範囲が拡大しつつあるのです。
このハイフロー療法に加えて、NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)や人工呼吸器の発達もあり、在宅での呼吸管理は格段の進歩が見られるとともに、それを適切に使用するための知識を身につけることが在宅医に求められています。
強い症状が残るなら、薬物療法による症状緩和
なお強い呼吸困難が残る場合には、薬物療法による症状緩和を行います。
●医療用オピオイド
現在、日本では呼吸困難に対して保険適用が認められている医療用オピオイドは塩酸モルヒネのみです。そのため、経口投与を基本とし、必要に応じて皮下注射や持続皮下注射などの方法で使用します。
状況によってはフェンタニルなど他の医療用オピオイドが用いられることもありますが、呼吸困難に対する保険適用はなく、一般的にはモルヒネほど十分なエビデンスは得られていません。そのため、呼吸困難の緩和においては、まずモルヒネの適切な使用法を習得することが重要です。
●抗不安薬
不安や恐怖が呼吸困難を増悪させることも多いため、必要に応じて抗不安薬などを併用し、精神的な安定を図ることもあります。しかし、それでも症状のコントロールが困難な場合は少なくありません。
●呼吸リハビリテーション
近年では、呼吸リハビリテーションも呼吸困難の軽減に有効な治療法として取り入れられています。
多面的アプローチによって症状の緩和を目指す
このように、呼吸困難に対しては、呼吸管理、薬物療法、精神的ケア、リハビリテーションなど、多面的なアプローチによって症状の緩和を目指します。
それでもなお耐え難い呼吸困難が持続し、あらゆる治療を尽くしても十分な緩和が得られない場合には、持続的鎮静(緩和的鎮静)を検討することがあります。これは患者さんの苦痛を和らげることを目的とした最終的な選択肢であり、適応については患者さんやご家族との十分な話し合い、多職種による慎重な検討が必要です。
私自身の経験では、ここまでの対応を必要とした患者さんはほとんどいませんでしたが、呼吸困難は終末期医療において最も苦痛の強い症状のひとつであり、その対応については病院医療・在宅医療を問わず、今後も医療界全体で検討を続けていくべき重要な課題であると考えています。
在宅での対応は「多職種との連携」「病状経過の理解」が重要に
ここまでは、在宅医療における呼吸器疾患の概要と、その対処法について述べてきました。在宅での呼吸器疾患への対応には、他の疾患と比較して2つの特徴があると考えています。
1つ目は、多職種との連携が不可欠であることです。
在宅酸素療法、ハイフローセラピー、人工呼吸療法などを安全かつ効果的に実施するためには、臨床工学技士をはじめとする専門職との連携が欠かせません。実際、酸素供給事業者には優れた臨床工学技士が在籍していることも多く、機器の管理や設定について適切な助言を受けられる場面が少なくありません。
私たちには、そのような専門家の助言を活用するとともに、自らも知識と技術を継続的にアップデートしていくことが求められます。また、呼吸リハビリテーションを実践するうえではリハビリテーション専門職との連携が重要であり、日常の療養支援では訪問看護師との連携も欠かせません。このように、呼吸器疾患の在宅診療は、多職種がそれぞれの専門性を発揮しながら支えるチーム医療そのものといえます。
2つ目は、呼吸器疾患特有の病状経過を理解しておく必要があることです。
呼吸器疾患では、他の疾患と比較して、急変する直前まで比較的元気に生活されている患者さんが少なくありません。しかし、その後、急速に呼吸状態が悪化し、短時間のうちに亡くなられることがあります。
そのため、このような病気の経過については、あらかじめ患者さんやご家族に十分説明し、急変の可能性について理解していただくことが重要です。
この点は、徐々に全身状態が低下していくことが多い進行がんの終末期とは異なる特徴の1つです。呼吸器疾患では、「昨日まで普段どおりに過ごしていたのに、翌朝には亡くなられていた」という経過をたどることも、残念ながら決して珍しくありません。在宅医療に携わる医療者は、この疾患特性を十分に理解するとともに、患者さんとご家族の疾患理解を深めていく努力をしていきましょう。
野末 睦
医師
医療法人 あい友会 理事長
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